この記事は、やきんかいごが介護現場で実際に体験・見聞きした出来事をもとに書いています。個人が特定されないよう、一部内容を変更・再構成しています。介護の実態をリアルにお伝えすることを目的としており、特定の施設・個人を批判する意図はありません。
「……お湯、張ってへんやん」

入浴介助の時間まであと15分。
浴槽を確認しに行ったスタッフが、固まった。
空っぽやった。お湯が、1ミリも張られてへんかった。
うちの施設では、一般浴のお湯を張るのは主任やリーダーの仕事やった。操作がややこしいから、下のスタッフは触ったらあかんルールになってたんや。
その日、担当の主任は遅刻してた。
引き継ぎもなし。お湯もなし。でも利用者さんはもう脱衣所で待ってる。
そこで介護課長が判断を下した。
「バケツで入れよか」
……バケツで、入れよか。
1回だけやない。同じ主任で、3パターンあった。
「それ1回だけの話やろ」って思ったやろ。
違うねん。同じ主任で、バケツ出動が3回あったんや。
1回目:遅刻してお湯を張り忘れ。
さっきの話や。主任が遅刻して、引き継ぎもなくて、浴槽が空っぽのまま入浴介助の時間を迎えた。
2回目:お風呂があること自体を忘れてた。
遅刻でもない。ちゃんと出勤してた。でもその日、主任はお風呂の存在をまるごと忘れてたんや。「今日って入浴日でしたっけ」のレベルやない。湯を張るという発想が、頭から消えてた。
3回目:ボイラーが壊れた。
これだけは主任のせいやない。ボイラーの不具合で浴槽にお湯が張れんくなった。ただ蛇口からのお湯は出た。そこで出た答えが、またバケツやった。
原因は毎回違う。でも答えは毎回同じ。
「バケツで入れよか」。
バケツリレーで銭湯サイズの浴槽を埋めていく
浴槽のサイズ、ちゃんと想像してほしい。銭湯の湯船と同じくらいある。あの広さを、バケツで埋めていくんや。
1人バケツ2個。3〜4人がかりで蛇口から熱湯を汲んで、浴槽まで運んで、また蛇口に戻って汲んで。それを何十往復も繰り返す。
腕がだるい。背中が焼ける。ポロシャツが汗で皮膚に張り付く。
夏場やった。浴室は換気してても蒸し風呂みたいな温度になる。そこで熱湯バケツを何十往復もするわけや。
しかもこの作業、勤務上の休憩時間を削ってやってた。本来休んでるはずの時間に、ひたすらバケツを運んでた。
湯を張り終えたら、そのまま入浴介助2〜3時間
「よし、やっと入れた」って思うやろ?
甘い。
湯を張り終えたその足で、そのまま入浴介助が始まるんや。移乗して、洗身して、洗髪して、また移乗して。それが2〜3時間続く。
バケツ運びで消耗しきった体で、そのまま全力の介助業務に入るわけや。
足はガクガク。腕はプルプル。でも利用者さんの前では、いつも通りの対応をせなあかん。
「移乗中に体勢が崩れたら」「転倒リスクはないか」——疲弊した体でも、頭の中のリスク管理は止められへんねん。
「バケツで入れたらええやん」が通ってしまう、これが現場や
正直に言う。その場にいたスタッフ、誰も大きく驚いてへんかった。
「しゃあないな」「早よやろか」——それだけやった。
3回目なんか、もはや「またか」やったんよ。バケツの場所、全員わかってるし。段取りも体が覚えてるし。
それがええとか悪いとかやなくて、それが「現場の空気」やってん。イレギュラーが起きても、なんとか回してしまう。それができてしまうのが、介護で働く人たちのすごさでもある。
ただ、それに慣れすぎてしまうと、しんどさの感覚がだんだんマヒしていく。「これくらい普通やろ」って思い始めたら、ちょっと立ち止まってみてほしいんよ。
バケツ3回分の話、笑えたか?笑えたなら、ほんまよかった。でもこれ、全部ノンフィクションベースやからな。
もっとエグい話は別記事にまとめてるから、興味ある人はそっちも見てな。