夜勤介護マンの日記
この記事は、夜勤介護マンが以前の介護現場で実際に経験した出来事をもとに書いています。個人・施設が特定されないよう、施設名、地域、階数、正確な時刻などは伏せています。本人の意図を確認できていない部分は、筆者の推測として本文中で分けて書いています。特定の施設や利用者さんを批判する目的の記事ではありません。同様の場面への対応は、本人の状態と、所属する施設の手順に基づいて判断してください。
夜勤入り直後、杖で窓の鍵を壊そうとしていた利用者。1人夜勤では見守れず、別フロアへ移ってもらった話【codoc】
歩けることと、見守りが少なくて済むことは、同じではなかった
夜勤へ入って間もない夕方だった。廊下を通りかかったとき、窓のところに利用者さんが立っていて、手にした杖の先が窓の鍵に当たっていた。
叩いていた。それも、当たっただけという動きではなかった。杖を使って、鍵をこじ開けようとしているように見えた。
その窓の鍵には、もともと不具合があった。結果として鍵は壊れなかったし、窓も開かなかった。ただ、開いていたら取り返しがつかなかったかもしれない、という場所だった。
声を掛けた。行動は止まらなかった。会話で「何をしようとしているのか」を確かめられる状態でもなかった。そして、そのフロアの夜勤者はワイ1人だった。
タイトルに書いたとおり、その利用者さんはその日のうちに、夜勤者が2人いる別のフロアへ移った。この記事は、その一連の出来事を、当時のワイが見ていた範囲で書き残すものや。
▷ この記事で分かること
- 夜勤入り直後、廊下の窓で実際に起きていたこと
- 鍵が壊れなかったという結果と、当時あった危険を分けて考える視点
- 「帰ろうとしていた」が事実ではなく筆者の推測である理由
- 1人夜勤では、なぜその人だけを見守り続けられなかったのか
- 上司へ報告してから、その日のうちに別フロアへ移るまでの流れ
- 安全のために生活場所を変える判断を、今どう振り返っているか
- 同じ場面で、観察事実と推測を分けて何を記録・報告するか
目次
- 夜勤入り直後、廊下の窓で見つけた光景
- 窓が開いたら、取り返しのつかない事故になり得た
- ワイには帰ろうとしているように見えた。でも確認はできなかった
- 歩ける人ほど、見守りが簡単とは限らない
- その場で確認できた事実は、意外と少なかった
- 声を掛けても、そこで終わる状況ではなかった
- 1人夜勤では、1人の隣へ付き続けることができない
- 鍵が壊れていないことと、安全だったことは同じではない
- 上司へ報告し、その日のうちに別フロアへ移ってもらった
- 1人から2人へ変わる意味は、単純に人数が倍になることではない
- 安全のためでも、生活場所を変える判断は軽くない
- 移動後に落ち着いたとは書けない
- 今振り返っても、その場で取れる別の方法は思い当たらない
- 同じ場面で、記録と報告へ残したいこと
- 歩ける=手がかからない、ではない
- よくある質問

※見出し画像はイメージです(AI生成)
夜勤入り直後、廊下の窓で見つけた光景
ワイが以前働いていた介護施設での出来事や。そのフロアには、比較的身体能力が保たれている利用者さんが多かった。自分の足で立てて、自分の意思で行きたいところへ移動できる人たちや。
その日は夜勤で、入って間もない夕方の時間帯だった。夜勤帯に入ったばかりというのは、フロアの状況をひととおり把握しながら、これから朝までの流れを組み立てていく時間でもある。
廊下を通りかかったとき、窓のところに、杖で歩いていた利用者さんが立っていた。
手が動いていた。杖の先が、窓のクレセント錠に当たっていた。何度か当たっているのが分かった。ただ、当たっているだけではなかった。杖を使って、その鍵をこじ開けようとしているように見えた。叩く動きと、こじる動きが混ざっていた。
もう一つ、ワイの頭に引っかかっていたことがある。その窓の鍵には、もともと不具合があった。どういう経緯でそうなっていたのか、いつからだったのか、どこまで報告されていたのかは、ワイには分からない。ただ、その鍵が万全の状態ではないことは、その場で分かっていた。
結論から書いておくと、鍵は壊れなかった。窓も開かなかった。物として何かが破損したわけではない。
それでも、あの場でワイが感じたのは「ああ、鍵が壊れなくてよかった」という安心ではなかった。もっと単純に、これは止めなあかん場面やという感覚のほうが先に来た。
なぜそう思ったのかは、次に書く。
窓が開いたら、取り返しのつかない事故になり得た
その窓は、地上から高さのあるフロアにあった。何階かは書かへん。ただ、そこから外へ出れば、転落など命に関わる事故につながり得る高さだった、という点だけは押さえておいてほしい。
窓が開くというのは、その場では単に「外の空気が入る」という意味やない。人が通れる開口部ができる、ということや。杖を使ってでも歩ける身体能力があるなら、開いた窓に対して身体を動かすことも、可能性としてはある。
ここは慎重に書いておきたい。ワイは、その利用者さんが飛び降りようとしていたとは書かない。そんなことは確認できていないし、本人がそう言ったわけでもない。窓の向こうで何をするつもりだったのか、そもそも窓の先に何を見ていたのか、ワイには分からへん。
ただ、危険というのは、本人の意図がはっきりしてから初めて発生するものやない。開けば重大な事故になり得る開口部があり、そこに働きかけている人がいて、その鍵に不具合がある。この三つが同時に成立している時点で、その場は危険な状況やった。
そして、結果として何も起きなかったことと、当時の危険度は別の話や。
介護の現場では、事故が起きなかった出来事は、どうしても軽く扱われやすい。実際に怪我人が出ていない、物も壊れていない、記録の上でも大きな出来事にはならない。だから「そこまでの話やなかったんちゃう」と後から言われることもある。
でも、鍵が壊れなかったのは、そのとき鍵が持ちこたえたからや。持ちこたえる保証がどこにあったかというと、少なくともワイには分からへんかった。不具合があると知っている鍵に、道具で力が加わり続けている。その状態を「まあ大丈夫やろ」と流せる根拠を、ワイは持っていなかった。
ワイには帰ろうとしているように見えた。でも確認はできなかった
あの光景を見たとき、ワイの頭に浮かんだのは「帰りたいんかな」ということやった。
外へ出ようとしている。どこかへ行きたいのかもしれない。家に帰ろうとしているのかもしれない。そういう見立てが、自然と出てきた。
ただ、ここははっきり分けて書いておく。それはワイ側の推測であって、本人が話したことやない。
ワイは声を掛けた。それでも行動は止まらなかった。そして、会話のやり取りで「何をしようとしているのか」を確かめられる状態ではなかった。だから、帰宅願望があったのかどうかも、外へ出て何をするつもりだったのかも、確認できていない。
介護の現場では、この種の推測が、いつの間にか事実として扱われることがある。「帰宅願望が強い方です」という一文が申し送りに書かれて、それを読んだ職員は、その人がなぜ動いたのかを、もう考えなくなってしまう。ワイ自身、そういう申し送りを読んで、そのまま受け取ってきた側でもある。
本人には本人なりの理由があったかもしれへん。それが帰宅願望だったのか、まったく別の何かだったのかは、分からないままや。分からないと書いておくほうが、あとから読む職員にとって誠実やと思う。断定してしまえば、その人を見るための余地が、そこで閉じてしまう。
だから、この記事の中でも、ワイの見立てはずっと「見立て」として書く。
歩ける人ほど、見守りが簡単とは限らない
介護の現場では、利用者さんの状態を「介助量」で見る場面が多い。移乗に何人要るか、食事に介助が要るか、排泄はどうか。そういう軸で見ていくと、自分で歩ける人は「手のかからない人」に分類されやすい。
実際、身体介助という意味では、その分類は間違ってへん。抱えて起こす必要も、車椅子を押す必要もない。
ただ、あの日の出来事を経験してから、ワイはその見方に引っかかるようになった。
歩けるということは、行きたい場所まで自分で移動できるということや。杖を扱えるということは、手に道具を持って、それを目的のために使えるということでもある。廊下の端の窓まで行けて、そこにある鍵に対して、道具を使って働きかけられる。その一連が成立するには、それなりの身体能力が要る。
身体介助の量と、見守りの必要性は、同じ尺度では測れへん。むしろ、動ける人のほうが、職員の目の届かない場所へ自分で到達できるぶん、見守りの難易度は上がることがある。
そして、そこに1人夜勤という条件が重なった。夜勤者が1人しかいないフロアで、特定の一人の隣に付き続けることは、現実的にできへんかった。他の利用者さんへの業務が、そこで全部止まってしまうからや。
結果として、その利用者さんはその日のうちに、夜勤者が2人いる別のフロアへ移った。
ここから先では、その判断に至るまでに何があったのかを、順を追って書いていく。何を事実として確認できて、何が推測だったのか。1人夜勤で具体的に何が成立しなかったのか。上司への報告から即日の移動まで、どういう順番で進んだのか。そして、人の生活する場所を変えるという判断を、今のワイがどう振り返っているのか。
ここから先で書くこと
- 声掛けで意図を確認できない中、何を事実として見たのか
- 1人夜勤では、その人だけを見守り続けられなかった理由
- 上司へ報告し、その日のうちに別フロアへ移ってもらった経緯
- 夜勤2人体制のフロアへ移すことが、なぜ現実的な対応だったのか
- 本人の生活場所を変えた判断を、今振り返ってどう考えるか
- 同様の場面で、観察事実と推測を分けて何を報告するか