入所の説明書や料金表に、「認知症短期集中リハビリテーション実施加算」という長い名前が並んでいることがあります。同じ書類には「短期集中リハビリテーション実施加算」という、よく似た名前も載っています。

名前が似ているのに別々に書かれている。どちらか一方を選ぶものなのか、両方受けられるのか、そもそも家族の親が対象なのか。説明を受けた場では聞きそびれてしまう、という方も少なくないと思います。

先に、いちばん誤解されやすいところから答えます。この仕組みは、認知症の診断があれば全員が自動的に受けられるものではありません。医師が認知症であると判断し、そのうえでリハビリによって生活機能の改善が見込まれると判断した方に対して、入所日から3か月以内という限られた期間に、個別に行われる仕組みです。

そして、普通の短期集中リハビリとは別枠の制度ですが、どちらか一方しか使えないわけでもありません。別々に実施されれば、制度上は両方を算定できます。

この記事では、対象、実施内容、期間や回数、普通の短期集中リハビリとの違い、加算のⅠとⅡの区別、費用の考え方、そして3か月を過ぎたあとの話までを、家族の目線で順に整理していきます。

先に要点

  • 認知症があるというだけで、全員が対象になるわけではない
  • 医師が「リハビリによって生活機能の改善が見込まれる」と判断した方が対象
  • 1回20分以上の個別リハビリで、週3日が標準。加算の算定も週3日が上限
  • 算定できる期間は、入所日から起算して3か月以内
  • 普通の短期集中リハビリとは、別途実施すれば制度上は併用できる
  • Ⅰは退所後に暮らす場所を訪問して計画を作る要件があり、Ⅱにはその要件がない
  • 3か月を過ぎても、老健のリハビリがすべて終わるとは限らない

▷ この記事でわかること

  • 認知症短期集中リハビリテーションとは何をする仕組みなのか
  • 誰が対象を判断し、誰が実施するのか
  • MMSEやHDS-Rの点数が「目安」にとどまる理由
  • 1回の時間、週の回数、実施できる期間
  • 普通の短期集中リハビリとの具体的な違い
  • 2つの短期集中リハビリを併用できる条件
  • 加算のⅠとⅡで何が違うのか
  • 単位数から自己負担を単純計算できない理由
  • 3か月を過ぎたあとに家族が確認したいこと

※見出し画像はイメージです(AI生成)


認知症短期集中リハビリテーションとは

正式な名称は「認知症短期集中リハビリテーション実施加算」といいます。長いので、この記事では以降「認知症短期集中リハ」または「この加算」と書きます。

まず押さえておきたいのは、これが施設独自のコース名や特別プログラムの商品名ではない、という点です。介護保険の報酬上に定められた加算のひとつで、要件を満たしたサービスを行った施設が算定します。ですので、A施設だけが用意している特別なサービス、という性質のものではありません。

この記事で出てくる言葉

老健:介護老人保健施設。在宅復帰や次の生活へ向けて、リハビリテーション、必要な医療、介護を提供する施設です。

加算:一定の要件を満たすサービスを行った場合に、介護報酬へ上乗せされる仕組みです。

生活機能:心身の働きだけでなく、食事、着替え、排泄、移動、他者との関わりなど、日常生活を送る力を含めた言葉です。

厚生労働省の通知では、この仕組みは認知症の入所者の在宅復帰を目的として行うものと位置づけられています。ここが、名前から受ける印象とずれやすいところです。

「認知症のリハビリ」と聞くと、認知症そのものを治療する訓練、あるいは記憶力を鍛えるトレーニングを想像するかもしれません。ただ、制度が目指しているのはそこではありません。目的として書かれているのは、在宅復帰に向けた生活機能の改善です。家に帰ったあと、あるいは次の生活の場で、その人がどう過ごせるかという方向を向いています。

もうひとつ、この加算は集団で行う体操やレクリエーションとは別のものです。制度上、1人の担当者が1人の入所者に対して個別に行うことが要件になっていて、実施計画に基づいて進められます。ですから、内容は入所している方によって変わります。同じ老健に入所している別の方と、まったく同じメニューになるとは限りません。

対象は「認知症がある人全員」ではない

ここが、家族にとって最初のハードルになります。認知症の診断がついているのだから当然受けられるはず、と考えると、施設からの説明とかみ合わなくなることがあります。

医師による2つの判断が必要

制度上、この加算の対象となるには、医師による判断が2段階必要です。

ひとつ目は、認知症の入所者であること。これは診断に関わる部分で、精神科の医師、脳神経内科の医師、または認知症のリハビリテーションに関する専門的な研修を修了した医師が関わることとされています。

そしてふたつ目が、リハビリテーションによって生活機能の改善が見込まれると判断されることです。認知症であることと、リハビリで生活機能が改善しそうであることは、別々の判断だという点がポイントになります。

この2つ目の判断があるために、認知症の診断があっても対象にならない場合が出てきます。逆に言えば、施設から「今回は対象外です」と説明されたとしても、それは本人の状態を軽く見ているとか、手を抜いているという話ではありません。制度が想定している要件に、その時点で当てはまらなかったということです。

加えて、施設の側にも要件があります。リハビリを担当する理学療法士、作業療法士、言語聴覚士が適切に配置されていること、入所者の人数に対してその専門職の人数が適切であること。こうした施設基準を満たし、届出をしている施設でなければ算定できません。同じ地域の老健でも、対応の可否が分かれることがあるのは、こうした背景があるためです。

MMSE・HDS-Rのおおむね5~25点は目安

厚生労働省の通知には、この加算の対象となる入所者について、MMSEまたはHDS-Rにおいておおむね5点~25点に相当する者という記載があります。

2つの検査について

MMSE:認知機能を確認するために用いられる検査のひとつです。

HDS-R:改訂長谷川式簡易知能評価スケール。こちらも認知機能を確認する検査のひとつです。

ここで注意したいのが、通知の表現が「おおむね」であり、「相当する者」となっていることです。点数が範囲内なら自動的に対象になる、範囲外なら機械的に除外される、という運用を定めたものではありません。

インターネット上には、簡易的な自己採点ができるページもあります。ただ、そこで出た数字を根拠に「うちの親は対象になるはずだ」あるいは「対象にならないだろう」と家族側で結論を出してしまうのは、あまり意味がありません。検査は本来、実施する条件や本人の体調によっても結果が動きますし、対象になるかどうかは、先に書いた医師の2つの判断と、施設側の要件を合わせて決まっていくものだからです。

点数は判断材料のひとつとして通知に書かれている、という位置づけで受け止めておくのがいいと思います。

再入所すれば必ず3か月がリセットされるわけではない

もうひとつ、家族には見えにくい要件があります。この加算は、入所者が過去3か月の間に当該加算を算定していない場合に限り算定できるとされています。

つまり、以前に別の老健でこの加算を受けていた、あるいは同じ施設に入所していて受けていた、という場合、入所し直したからといって自動的にまた3か月分が使えるとは限りません。

実際の判断には、それまでの算定状況の確認が必要になります。ここは算定の実務にあたる部分なので、この記事で細かく踏み込むことはしません。過去に老健を利用したことがある場合は、そのことを施設へ伝えたうえで、今回の入所で対象になるかを確認してもらう、という進め方が現実的です。

何をするのか|記憶の訓練と日常生活活動の訓練を組み合わせる

厚生労働省の通知では、実施する内容について「記憶の訓練、日常生活活動の訓練等を組み合わせたプログラム」と書かれています。この一文を、家族向けにほどいてみます。

ポイントは、記憶の訓練だけに限定されていないことです。「等を組み合わせた」という書き方になっていて、日常生活活動の訓練が並んで示されています。

日常生活活動(ADL)とは

ADL:食事、着替え、排泄、入浴、移動など、日常生活の基本となる動作のことです。

ですから、机に向かって計算問題や記憶課題を繰り返すだけの時間、というイメージだけで捉えると実態からずれます。着替えの動作、食事の場面での動き、トイレまでの移動といった、生活そのものに関わる部分も対象に入り得ます。

とはいえ、具体的に何をどう行うかは、その人によって変わります。実施計画に基づいて個別に行われるものなので、どの課題をどれだけ組み合わせるかは、本人の状態と目標次第です。「認知症の人には必ずこれをやる」という決まったメニュー表があるわけではありません。

ここは筆者が直接関わっていない領域なので、具体的な訓練例を並べて示すことはしません。実際に何を行う予定なのかは、入所先のリハビリ専門職に聞くのがいちばん確実です。そして、そのときの答えは施設によっても、本人によっても違うはずです。

もうひとつ書いておきたいのが、同じことを家庭で自己流に真似することはすすめられないという点です。この加算は、専門職が本人の状態を評価したうえで、計画に沿って行うものとして設計されています。家族が良かれと思って同じような課題を繰り返しても、本人にとって負担になったり、うまくいかない体験が重なったりすることもあり得ます。家庭でできる関わりについて知りたい場合は、施設のリハビリ職に相談してみてください。

誰が行うのか|医師または医師の指示を受けたPT・OT・ST

実施する人も、制度上はっきり決まっています。医師、または医師の指示を受けた理学療法士、作業療法士、言語聴覚士です。

3つの専門職

PT(理学療法士):立つ、歩くといった基本的な動作の回復や維持を担当する専門職です。

OT(作業療法士):食事や着替えなど、生活に必要な活動の練習を担当する専門職です。

ST(言語聴覚士):話す、聞く、食べ物を飲み込むといった機能に関わる専門職です。

そして、1人の担当者が1人の入所者に対して行った場合にのみ算定するという要件があります。同じ時間に複数の入所者をまとめて見る形は、この加算の対象にはなりません。マンツーマンで向き合う時間として制度が設計されている、ということです。

ここで、家族が混同しやすいところを整理しておきます。老健では、介護職員が日々の生活場面で本人と関わります。声をかけながら着替えを手伝い、食事の様子を見て、トイレへ付き添う。そうした関わりも、本人の生活を支えるうえで欠かせないものです。

ただ、それはこの加算が想定している個別リハビリとは別のものです。介護職員が生活のなかで行う支援を、加算の対象となる訓練として代わりに実施することはできません。制度上、実施者が限定されているためです。

どちらが上ということではなく、役割が違います。専門職が計画に沿って個別に行う時間と、生活のなかで日常的に積み重なる関わり。この2つが並行して本人の暮らしを支えている、という見方をしてもらえたらと思います。

期間・回数・時間|入所後3か月以内、1回20分以上、週3日

数字が3つ出てくるので、それぞれ意味を分けて押さえておきます。

まず期間です。この加算を算定できるのは、入所日から起算して3か月以内とされています。入所してから早い時期に集中して取り組む、という考え方が制度に組み込まれています。

次に1回の時間。個別に20分以上実施した場合に算定するとされています。20分に満たない場合は、この加算の対象にはならず、通常の施設サービス費に含まれる扱いになります。

そして回数です。ここは少しややこしいので、2つに分けます。厚生労働省の通知では、プログラムを週3日実施することを標準とすると書かれています。同時に、加算として算定できるのは1週につき3日が上限です。標準であり、上限でもある、という形になっています。

「週3日」を読み違えないために

週3日が標準とされていることは、対象になった方全員が必ず毎週きっちり3日実施される、という意味ではありません。本人の体調、施設の予定、通院や外泊などによって、実際の実施状況は変わり得ます。

逆に、もっと回数を増やしてほしいと希望しても、この加算として算定できるのは週3日までです。実際に何日行う予定なのかは、入所先へ確認してください。

最後に、3か月という期間の読み方についても触れておきます。これは加算を算定できる期間であって、「3か月で改善しなければならない期限」ではありません。3か月経ったから効果がなかった、という評価につながるものでもありません。

認知症のある方の状態は、日によっても時間帯によっても違います。数字で区切られた期間のなかで何がどう変わるかを、家族が過度に気にしすぎる必要はないと思います。

普通の短期集中リハビリとの違い

老健には、認知症短期集中リハとは別に「短期集中リハビリテーション実施加算」があります。名前が似ているので、料金表で並んでいると混乱しやすいところです。違いを表にまとめます。

比較項目 短期集中リハビリテーション実施加算 認知症短期集中リハビリテーション実施加算
主な対象 老健へ入所した方(入所後早期の集中的なリハビリが必要な方) 医師が認知症と判断し、かつ生活機能の改善が見込まれると判断した入所者
目的・視点 入所後早期に集中的なリハビリを行い、生活機能の回復を図る 認知症の入所者の在宅復帰に向けた生活機能の改善
内容の考え方 個別のリハビリテーション 記憶の訓練、日常生活活動の訓練等を組み合わせたプログラム
実施者 医師または医師の指示を受けたPT・OT・ST等 医師または医師の指示を受けたPT・OT・ST(1人が1人に対して個別に実施)
1回の時間・頻度 20分以上の個別リハビリを、1週につきおおむね3日以上 1回20分以上。週3日が標準であり、算定は週3日が上限
算定期間 入所日から起算して3か月以内 入所日から起算して3か月以内
単位数
(2026年8月23日時点)
Ⅰ:258単位/日
Ⅱ:200単位/日
Ⅰ:240単位/日
Ⅱ:120単位/日
併用の考え方 別途実施した場合は、制度上どちらも算定できる

単位数は2026年8月23日時点の内容です。介護報酬の改定により変わる場合があります。

表を見ると数字の違いに目が行きますが、ここでいちばん伝えたいのは別のことです。

普通の短期集中リハを「身体のリハビリ」、認知症短期集中リハを「頭のリハビリ」と単純に分けるのは、正確ではありません。認知症短期集中リハの内容には日常生活活動の訓練が含まれますし、普通の短期集中リハも生活動作に関わります。どちらも、生活のなかで本人ができることを支える方向を向いています。

では何が違うのかというと、対象となる要件、目的として掲げられていること、実施するプログラムの考え方、そして算定に必要な要件です。制度としての設計が違う、という理解のほうが実態に近いと思います。

なお、普通の短期集中リハビリのⅠとⅡの違いや、3か月という期間の全体像については、別の記事で詳しく整理しています。あわせて読むと、老健のリハビリの枠組みが見えやすくなるはずです。

2つの短期集中リハビリは併用できる

「どちらか一方を選ぶのですか」という疑問について、制度上の答えを書きます。

厚生労働省の通知には、短期集中リハビリテーション実施加算を算定している場合であっても、別途この認知症短期集中リハビリテーションを実施した場合は算定することができるという趣旨の記載があります。つまり、二者択一ではありません。

ただし、ここは丁寧に読む必要があります。鍵になるのは「別途実施した場合」という部分です。

同じ20分の訓練を、2つの加算として二重に数えられる、という意味ではありません。それぞれの加算には別々の要件があり、実際にそれぞれのリハビリが別に行われた場合に、それぞれを算定できるという構造です。

もうひとつ、併用できるということと、対象になった人には必ず両方実施されるということは、別の話です。本人にとってどのリハビリがどれだけ必要かは、状態と計画によって決まります。両方の要件を満たしていても、実際にどう組み立てるかは施設の判断になります。

ですので、家族が確認したいのは「併用できるか」ではなく、「本人の場合は、実際にどちらを、どのくらい行う予定か」のほうです。これは施設に聞かなければ分かりません。

認知症短期集中リハビリのⅠとⅡの違い

料金表を見ると、この加算にも(Ⅰ)と(Ⅱ)の区分があります。数字が倍近く違うので、「Ⅰのほうが手厚いのだろう」と受け取られがちですが、そう単純ではありません。違いを整理します。

比較項目 認知症短期集中リハビリテーション実施加算(Ⅰ) 認知症短期集中リハビリテーション実施加算(Ⅱ)
単位数
(2026年8月23日時点)
240単位/日 120単位/日
専門職の配置 リハビリを担当するPT・OT・STが適切に配置されていること リハビリを担当するPT・OT・STが適切に配置されていること
人数のバランス 入所者数が、PT・OT・STの数に対して適切であること 入所者数が、PT・OT・STの数に対して適切であること
退所後の生活先への訪問 入所者が退所後に生活する居宅または社会福祉施設等を訪問し、把握した生活環境を踏まえてリハビリテーション計画を作成していること この要件は含まれない
同時算定 ⅠとⅡを同時に算定することはできない
1回の時間・頻度・期間 1回20分以上、週3日が標準・算定上限、入所日から3か月以内(Ⅰ・Ⅱ共通)

単位数は2026年8月23日時点の内容です。介護報酬の改定により変わる場合があります。

表のとおり、Ⅰだけにある要件は「退所後に生活する場所を訪問し、そこで把握した生活環境を踏まえて計画を作る」という部分です。共通の施設要件はどちらにもあり、そのうえでⅠには訪問と計画作成が加わる、という関係になっています。

ここから、いくつか読み違えを防いでおきます。

まず、Ⅰは訓練の時間が単純に2倍になる、という意味ではありません。1回20分以上、週3日という条件はⅠもⅡも共通です。単位数の差は、訓練の長さではなく要件の違いによるものです。

次に、Ⅰが良くてⅡが劣る、という品質のランキングでもありません。Ⅱでも専門職の配置要件は満たしたうえで、計画に基づいた個別リハビリが行われます。

そして、家族が好きなほうを選べる商品ではありません。どちらの区分になるかは、施設の届出状況、体制、そして実際に行われる内容によって決まります。「Ⅰでお願いします」と希望して切り替えられるものではない、という前提で説明を聞いてください。

そのうえで、Ⅰの要件には家族にとって意味のある側面もあります。退所後に暮らす場所を実際に見たうえで計画を作る、という考え方だからです。自宅の間取りや段差、どこで何をするのかといった環境は、その場所を見なければ分からない部分があります。もしⅠを算定する予定と説明されたら、訪問の時期や、そこで何を見てもらえるのかを聞いてみるといいと思います。

費用は単位数だけでは決まらない

ここまで240単位、120単位という数字を出してきましたが、この数字から自己負担額を計算することはできません。

単位について

単位:介護保険サービスの費用を計算するための基準です。単位数と、家族が実際に支払う円の金額は同じではありません。

240単位は240円ではありませんし、2,400円でもありません。自己負担が240円になるわけでもありません。実際の金額は、いくつかの要素が組み合わさって決まります。

  • 地域区分による1単位あたりの単価(地域によって異なります)
  • 本人の自己負担割合(所得等に応じて1割、2割、3割のいずれか)
  • 実際にこの加算を算定した日数
  • 施設がどの区分を算定しているか

たとえば同じ240単位でも、地域が違えば単価が違い、負担割合が違えば支払う額も変わります。ですから、ネット上で見かける計算例が、そのまま自分の家庭に当てはまるとは限りません。

もうひとつ整理しておきたいのが、この加算の費用と、老健の利用料全体は別の話だということです。老健では、施設サービス費のほかに食費、居住費などがかかります。加算はそこに上乗せされる部分であって、これだけで請求額が決まるわけではありません。

正確な金額を知りたい場合は、施設から渡される重要事項説明書や料金表を確認し、分からなければ請求を担当している職員に聞くのがいちばん早いです。「この加算がついた場合、月の請求はどのくらい変わりますか」と具体的に聞けば、概算で答えてもらえるはずです。

費用の話は不安になりやすい部分ですが、事前に見通しを聞いておけば、あとから驚くことは減らせます。

3か月を過ぎたらどうなるのか

「入所後3か月以内」という説明を聞いて、3か月経ったらリハビリが打ち切られるのか、と心配される方がいます。ここは分けて考える必要があります。

3か月で終わるのは、この加算を算定できる期間です。老健で行われるリハビリテーションや、認知症のある方への支援そのものが、その日を境に一斉に終了するという意味ではありません。

老健は、入所者の心身の機能の維持回復を図り、日常生活の自立を助けるために、リハビリテーションを計画的に行う施設として位置づけられています。3か月を過ぎたあとも、本人の状態や計画に応じた関わりは続きます。

ただし、内容や頻度、目標がそれまでと同じとは限りません。何がどう変わるのかは、本人の状態、そのときの計画、施設の体制によって違います。ここは制度の説明で一律に答えられる部分ではないので、施設に確認してもらうしかありません。

そう考えると、入所から3か月が近づいてきた時期は、家族にとってひとつの節目になります。この3か月で何が見えてきたのか、今後どういう目標で進めていくのか、退所の見通しはどうか。このあたりを整理して聞いておくと、その後の見通しが立てやすくなります。

それから、念のため書いておきます。3か月を過ぎたら回復しない、というものではありません。制度が期間を区切っているのは、入所後早期の集中的な取り組みを評価する仕組みだからであって、その日以降の変化を否定しているわけではありません。

家族が老健へ確認したい7つのこと

ここまでの内容を、施設へ聞ける形に整理します。施設のやり方を問いただすためのものではなく、本人の計画を一緒に理解するための確認事項として使ってもらえたらと思います。

  1. 本人は認知症短期集中リハの対象になりますかまずここです。対象にならない場合も、その理由と、代わりにどんな関わりがあるのかを聞いておくと安心です。
  2. リハビリで目指す生活上の目標は何ですか「認知症が良くなる」ではなく、生活のどの場面をどうしたいのか。具体的な目標を共有しておくと、家族の見方も変わります。
  3. どの職種が、どのくらいの頻度で担当する予定ですかPT・OT・STのうち誰が中心になるのか、週に何日を予定しているのか。実際の予定を聞いておきます。
  4. 普通の短期集中リハビリも行う予定はありますか併用できる仕組みですが、実際に両方行うかどうかは計画次第です。
  5. ⅠとⅡのどちらを算定しますか。何が違いますかⅠの場合は、退所後の生活先への訪問がいつごろになるのかも聞いておくと、退所の準備につながります。
  6. 実際の自己負担はどのくらいになる見込みですか加算がついた場合、月の請求がどう変わるのか。概算でも聞いておけば見通しが立ちます。
  7. 入所後3か月を過ぎたら、どういう計画になりますか加算の期間が終わったあとの方針です。早めに聞いておいて損はありません。

あわせて、家族の側から伝えられることもあります。退所後の暮らしで困りそうな動作、本人がこれまでどんな生活をしてきたか、どういうときに落ち着くのか。こうした情報は、計画を立てるうえでの参考になり得ます。

ただし、情報を伝えれば必ず良い結果につながる、と約束できるものではありません。それでも、本人のことをいちばん長く見てきたのは家族です。専門職が短い期間で把握しきれない部分を補える立場にある、という意味では、伝える価値は十分にあると思います。

よくある誤解を整理する

ここまでの内容から、特に誤解されやすい点を並べておきます。

認知症なら全員受けられる

医師が認知症と判断し、さらにリハビリによって生活機能の改善が見込まれると判断した方が対象です。施設側にも配置などの要件があります。

認知症を治すための訓練である

制度上の目的は、在宅復帰に向けた生活機能の改善です。認知症そのものを治す、進行を止めると約束する仕組みではありません。

記憶の問題だけを繰り返す

通知には「記憶の訓練、日常生活活動の訓練等を組み合わせたプログラム」と書かれています。生活動作に関わる部分も含まれます。

毎日、長時間行う

1回20分以上で、週3日が標準かつ算定上限です。毎日行うものでも、長時間続けるものでもありません。

普通の短期集中リハとは同時に使えない

別途それぞれを実施した場合は、制度上どちらも算定できます。ただし、同じ訓練を二重に数えられるわけではありません。

ⅠはⅡの2倍長く訓練する

時間や頻度の条件はⅠもⅡも共通です。違うのは、退所後の生活先を訪問して計画を作る要件の有無です。

3か月後にはすべてのリハビリが終わる

終わるのは、この加算を算定できる期間です。その後の関わりは、本人の状態と計画、施設の体制によって変わります。

まとめ|制度名より、本人の目標と3か月後の見通しを確認する

認知症短期集中リハビリテーション実施加算は、認知症の入所者の在宅復帰に向けて、入所後の早い時期に個別のリハビリを行う仕組みです。認知症の診断があれば全員が対象になるものではなく、医師が生活機能の改善を見込めると判断した方に対して行われます。

1回20分以上、週3日が標準かつ算定上限、期間は入所日から3か月以内。普通の短期集中リハビリとは別枠の制度で、別途実施すれば制度上は併用できます。ⅠとⅡの違いは、退所後に生活する場所を訪問し、その環境を踏まえて計画を作るかどうかにあります。

ただ、ここまで読んでもらって最後に伝えたいのは、制度名や単位数を覚えることではありません。大事なのは「本人の場合はどうなのか」です。

対象になるのか。何を目標にして、誰が、どのくらい実施するのか。ⅠとⅡのどちらで、費用はどうなるのか。そして、3か月を過ぎたあとはどう考えているのか。この4つを、入所先の医師、リハビリ専門職、支援相談員、ケアマネジャーへ聞いてみてください。

制度の枠組みを知っておくと、説明を聞くときに何を確認すればいいかが分かります。この記事が、その手がかりになれば十分です。

よくある質問

認知症があれば誰でも対象になりますか。

いいえ。医師が認知症であると判断したうえで、リハビリによって生活機能の改善が見込まれると判断された方が対象です。施設側にもリハビリ専門職の配置などの要件があるため、施設によって対応できるかどうかが分かれることもあります。対象になるかどうかは入所先へ確認してください。

どのような訓練をしますか。

厚生労働省の通知では、記憶の訓練と日常生活活動の訓練等を組み合わせたプログラムとされています。記憶の課題だけを行うものではなく、着替えや移動といった生活動作に関わる部分も含まれ得ます。具体的な内容は本人の状態と実施計画によって異なるため、施設のリハビリ職へ聞くのが確実です。

1回何分で、週に何回行いますか。

1回20分以上を個別に実施した場合が対象で、週3日が標準とされています。加算として算定できるのも週3日までです。ただし、本人の体調や施設の予定によって実際の実施日数は変わり得ます。予定については入所先へ確認してください。

普通の短期集中リハビリと一緒に受けられますか。

制度上は、それぞれを別途実施した場合、どちらも算定できます。ただし同じ訓練を2つの加算として数えられるわけではありません。また、併用できることと、実際に両方行うかどうかは別の話です。本人の計画でどうなるかは施設へ確認してください。

認知症短期集中リハのⅠとⅡは何が違いますか。

Ⅰには、退所後に生活する居宅や社会福祉施設等を訪問し、そこで把握した生活環境を踏まえて計画を作成するという要件があります。Ⅱにはこの訪問の要件がありません。訓練の時間や頻度は共通で、ⅠとⅡを同時に算定することはできません。どちらになるかは施設の体制や届出によって決まります。

3か月を過ぎるとリハビリは終わりますか。

終わるのは、この加算を算定できる期間です。老健でのリハビリや支援そのものが一斉に終わるわけではありません。ただし、その後の内容や頻度、目標は本人の状態や計画、施設の体制によって変わります。3か月が近づいたら、今後の計画を確認しておくといいと思います。

MMSEやHDS-Rが何点なら必ず対象になりますか。

通知にはおおむね5点~25点に相当する者という記載がありますが、これは目安です。点数が範囲内なら自動的に対象になる、という仕組みではありません。医師による2つの判断と施設側の要件を合わせて決まりますので、ネット上の自己採点で家族が結論を出すことはおすすめしません。

実際の自己負担はいくらですか。

単位数から直接計算することはできません。地域区分による1単位あたりの単価、本人の負担割合、実際に算定した日数、施設がどの区分を算定しているかによって変わります。食費や居住費など老健全体の費用とも別です。正確な金額は重要事項説明書や料金表を確認し、施設の担当者へ聞いてください。

夜勤介護 × 家族介護

介護の現実は、きれいごとだけでは分からない。

現場で起きたこと、夜勤者の判断、家族が抱える迷いを実録でお届けします。

夜勤介護と家族介護の実録を読む
この記事は、2026年8月23日時点で確認した厚生労働省の資料をもとに構成しています。筆者は介護職として介護老人保健施設に勤務した経験がありますが、認知症短期集中リハビリテーション実施加算の対象判定、計画作成、訓練の実施、評価、算定には直接関わっていません。記事内の単位数や要件は、介護報酬の改定により変更される場合があります。対象となるかどうか、実施する内容、実際の自己負担額は、本人の状態や施設の体制によって異なります。個別の内容については、入所先の医師、リハビリ専門職、支援相談員、ケアマネジャー、または市区町村の窓口へご確認ください。この記事は診断や治療方針を示すものではありません。