※この記事は、20年以上の介護現場経験をもとに、一般的な情報提供を目的として書いています。治療や対応については、必ず医師・専門家の指示に従ってください。制度や治療法は変わる場合があります。
介護知識 — 感染症対策
疥癬(かいせん)を徹底解説。
介護職員・ご家族が知っておくべきこと。
症状・感染経路・治療薬・洗濯対応まで、素人でも分かるように全部書く。
▷ この記事でわかること
- 疥癬とは何か——原因となるヒゼンダニの正体
- 体のどこに、どんな症状が出たら疥癬を疑うか
- 通常疥癬とノルウェー疥癬(角化型疥癬)の違い
- 治療薬(イベルメクチン・フェノトリン)の使い方
- 洗濯・消毒・隔離など、施設・自宅での具体的な対応
- 日本での年間感染者数と、施設での集団発生リスク
介護の現場で20年働いてきて、ワイが「これだけは絶対に知っておかなアカン」と思う感染症の一つが、疥癬や。
疥癬は、ちゃんと対応すれば必ず終息する。でも、気づくのが遅れると——施設全体に広がって、何十人もの利用者さんとスタッフが一度に対応を余儀なくされる事態になる。
そのリスクを下げるために、知識が必要や。
介護職員だけやなく、施設に家族を預けてる人にも、ぜひ読んでほしい内容をまとめた。
疥癬とは何か

疥癬(かいせん)は、ヒゼンダニという小さなダニが皮膚に寄生することで起きる感染症や。
ヒゼンダニは肉眼ではほぼ見えへんほど小さい——メスの成虫でも体長約0.4ミリメートル。
このダニが皮膚の表面(角質層)に潜り込んで、トンネルを掘りながら卵を産んでいく。
トンネルを掘られた皮膚は激しくかゆくなる。
かゆみの主な原因は、ダニそのものというより——ダニの糞や卵に対するアレルギー反応や。
体の免疫がダニの成分に反応して、炎症が起きる。それが、あの強烈なかゆみになる。
ヒゼンダニの基本情報
体長:メス約0.4mm、オス約0.2mm(肉眼では見えへんレベル)
寿命:皮膚の上で約2か月。皮膚から離れると2〜3時間で死亡
産卵:メスは毎日2〜3個の卵を産む。卵は3〜4日で孵化
弱点:乾燥と熱に弱い。50度以上の熱で10分で死滅
日本での感染状況——年間どれくらいの人が感染してるか
疥癬は決して「珍しい感染症」やない。
日本国内では年間8万から15万人の患者が発生していると推定されており、医療機関、高齢者施設や養護施設などでの集団発生事例が散発している。
年間最大15万人——これは決して少ない数字やない。
しかも、実際には診断されてへん人や気づいてへん人も含めると、さらに多い可能性がある。
特に問題になるのが、高齢者施設での集団発生や。特別養護老人ホームを対象にした調査では、集団発生を経験したことがある施設は79%にのぼったという報告がある。
つまり、高齢者施設の約8割が、疥癬の集団発生を経験してる——ということや。
「うちの施設は関係ない」という話やなく、「いつ起きてもおかしくない」という話や。
ワイも現場で何度か疥癬の対応を経験した。
早期発見できた場合と、発見が遅れた場合では——対応の規模と消耗が、まるで違う。
知識を持っておくことが、早期発見への一番の近道やと思ってる。
どうやって感染するか——感染経路
疥癬の感染経路で一番多いのは、皮膚と皮膚の直接接触や。
介護現場では、排泄介助・入浴介助・更衣介助などで利用者さんの皮膚に触れる機会が多い。
感染者の皮膚に素手で長時間触れることで、ダニが移る。
注意が必要なのは、通常の社会生活で、通常疥癬患者と数時間並んで座った程度では、感染する可能性はほとんどないという点や。
「ちょっと近くにいた」だけで感染するわけやない。感染には、ある程度の直接接触が必要や。
ただし、後述する「ノルウェー疥癬(角化型疥癬)」の場合は話が別や。こちらは感染力が桁違いに強く、間接接触(寝具・衣服など)でも感染することがある。
感染しやすい状況
・介護(排泄介助、入浴介助、更衣介助など)での直接接触
・同じ布団や寝具を使う
・家族内での長時間の密接な接触
・ノルウェー疥癬患者が使用した衣服・寝具との接触
体のどこに症状が出るか——早期発見のために知っておくこと
疥癬を疑うべき症状は、主に二つや。強いかゆみと、皮膚の変化。
かゆみの特徴
疥癬のかゆみは、夜間に強くなるのが特徴や。
昼間はそれほどでもないのに、夜になると急に強くかゆくなる——そういう訴えがあれば、疥癬を疑う必要がある。
ただし、高齢者や免疫が低下している人は、かゆみを強く感じへんことがある。
「かゆいと言わないから大丈夫」ではなく、皮膚の状態を目で確認することが大切や。
症状が出やすい場所
疥癬の症状は、頭部を除く全身に出る可能性があるけど、特に出やすい場所がある。
症状が出やすい部位
・指の間(手指の間が一番多い)
・手首の内側
・肘の内側
・脇の下
・お腹・ウエスト周り(ベルトラインに沿った部分)
・太ももの内側
・陰部(男性では陰嚢・陰茎、女性では外陰部)
・乳房の周り
※頭部には通常は出ない(ノルウェー疥癬は例外)
疥癬トンネルとは
疥癬に特有の皮膚の変化として、疥癬トンネルがある。
ヒゼンダニのメスが皮膚の中をトンネル状に掘り進みながら卵を産むため、皮膚の表面に細くて蛇行した線状の跡が残る。
長さは数ミリ〜1センチ程度。色は薄い灰色〜白っぽい線として見えることが多い。
ただし、疥癬トンネルは見つけにくいことが多い。
一度の診察で疥癬トンネルが見つかるとは限らず、何度目かに初めて診断されることも少なくない。
「トンネルが見えへんから疥癬やない」とは言えへんので注意が必要や。
赤いぶつぶつ(丘疹)
疥癬トンネル以外に、赤いぶつぶつ(丘疹)が出ることも多い。
これはダニのアレルギー反応による炎症で、体幹や四肢に広がって出てくる。
虫刺されのような見た目や、湿疹に似た見た目のこともあり、他の皮膚疾患と区別しにくい。
また、陰嚢や陰茎に硬いしこり(結節)ができることもある。これも疥癬の特徴的な症状の一つや。
潜伏期間に注意
感染直後は症状が出ないが、感染後約4〜6週間でダニが多数増殖し、虫体や糞に感作されてアレルギー反応としての激しいかゆみが始まる。
感染してから症状が出るまでに1〜2か月かかるということや。
これが疥癬の対応を難しくする大きな理由の一つや。
症状が出てから「誰からもらったんやろ」と考えても、1〜2か月前の接触が原因やから、特定が難しい。
通常疥癬とノルウェー疥癬の違い
疥癬には大きく分けて、通常疥癬とノルウェー疥癬(角化型疥癬)の2種類がある。
この二つの違いを知ることが、対応の判断に直結する。
通常疥癬
一般的な疥癬。皮膚に寄生するダニの数は数十匹程度。
強いかゆみがあり、指の間・手首・陰部などに症状が出る。
感染力は比較的弱く、通常の疥癬は、患者の協力が得られれば大部屋での生活でもよく、人との直接接触を避ければ感染リスクを下げられる。
ノルウェー疥癬(角化型疥癬)
免疫力が低下してる人(高齢者、病気の人、ステロイドを長期使用してる人など)に起きやすい、重症型の疥癬。
通常疥癬で寄生するヒゼンダニの数は数十匹以下だが、角化型疥癬では100万〜200万匹に達し、感染力が強くなる。
100万〜200万匹——この数の差が、感染力の差に直結する。
ノルウェー疥癬の人が使った寝具・衣服にも大量のダニがいるため、直接接触がなくても感染する可能性がある。
ノルウェー疥癬の見た目の特徴
・皮膚が厚く、灰色〜白っぽい垢(かさぶたのようなもの)が大量に付く
・手のひら、足の裏、頭部にも出ることがある(通常疥癬では頭部に出ない)
・かゆみが比較的弱いことがある——「かゆくない=疥癬やない」は通用しない
・剥がれ落ちた垢に大量のダニがいるため、環境への汚染が広範囲になる
ノルウェー疥癬の恐ろしいところは、かゆみが弱いため発見が遅れやすいこと。
利用者さんが「かゆい」と訴えへんから気づかへんまま時間が経つと——その間に多くの人に感染が広がってしまう。
集団生活が行われている高齢者福祉施設や養護施設などでは、一人の角化型疥癬患者の入所で集団発生の危険が生じる。
施設での集団感染の多くは、ノルウェー疥癬が発見・対応されへんまま広がったことが原因や。
診断の難しさ——「疥癬かどうか」はなぜすぐ分からへんのか
疥癬の診断は、皮膚科での検査が基本や。
皮膚を少し削り取って顕微鏡で確認し、ヒゼンダニや卵が見つかれば確定診断になる。
でも実際には、疥癬トンネル以外の症状からは他の病気と区別することができず、潜伏期や初期にはトンネルも見つからないことが多いため、疥癬は診断が難しい病気だ。
湿疹、アトピー、虫刺され——症状が似てる皮膚疾患は多い。
だからこそ、「かもしれない」という段階で皮膚科を受診することが大切や。
「様子を見よう」が、施設全体への感染拡大につながることがある。
特に介護現場では、新しく入所してきた利用者さんや、最近別の病院・施設から移ってきた利用者さんへの注意が必要や。入所時の皮膚状態の確認を習慣にしておくことが、早期発見への一番の近道や。
治療——薬の種類と使い方
疥癬の治療は、ダニを駆除する薬を使う。現在、主に使われてる薬は2種類や。
イベルメクチン(ストロメクトール)——飲み薬
ノーベル賞を受賞した大村智先生の研究から生まれた薬で、現在疥癬治療の主力となってる飲み薬や。
体重に合わせた量を空腹時に1回、水で内服する。2回目の投与は1週間後とする。
飲み薬なので全身に効果が及ぶ。介護が必要な高齢者や、外用薬を全身に塗るのが難しい人にも使いやすい。
介護施設などの濃厚接触のある環境での流行に用いられ、良好な成績を収めている。
ただし、医師の処方が必要な薬や。自己判断で使えへん。
フェノトリン(スミスリンローション)——外用薬
通常、1週間隔で、1回30gを頸部以下の皮膚に塗布し、塗布後12時間以上経過したら洗い流す。
首から下の全身に、塗り漏らしがないように塗ることが大切や。
指の間、爪の間、陰部など——見落としやすい場所も丁寧に塗る。
外用薬は塗り方が不十分やと効果が出えへん。
特に自分で塗れへん人は、介護者がしっかり全身に塗り込む必要がある。
治療中の注意点
・治療は患者本人だけやなく、濃厚接触者も同時に行うことが重要。一人だけ治療しても、接触者から再感染する可能性がある
・治療後もかゆみが続くことがある。これはダニが死んだ後のアレルギー反応が残るからで、治療が効いてへんわけやない
・かゆみに対して、抗ヒスタミン薬が補助的に使われることもある
・ステロイドの外用・内服は症状を悪化させる可能性があるので、疥癬が疑われる場合は使わない方がいい
施設・自宅での対応——洗濯・消毒・隔離の具体的な方法
疥癬は薬で治療するだけやなく、環境への対応も重要や。
ヒゼンダニは皮膚から離れると2〜3時間で死ぬけど、その間に寝具や衣服から別の人に感染する可能性がある。
洗濯・熱処理
衣服・タオル・寝具の対応
・50度以上のお湯で10分以上洗うか、乾燥機で高温乾燥させる
・熱処理が難しい大きなものは、密閉したビニール袋に入れて3日間以上放置する(ダニが乾燥して死滅する)
・ノルウェー疥癬の場合は、使用した寝具・衣服を全て熱処理するか隔離することが望ましい
隔離・個室管理
通常疥癬の場合は、直接接触を避ければ大部屋での生活も可能や。
ただし、ノルウェー疥癬の場合は個室管理が基本になる。感染力が非常に強いため、廊下への移動も最小限にする必要がある。
手洗い・グローブの使用
介護者は疥癬患者の介助をするとき、使い捨てグローブと長袖のガウンを着用する。
介助後は必ず手洗いと手指消毒を行う。
アルコール消毒だけでは不十分な場合があるため、石けんでの手洗いを基本とする。
掃除・環境整備
ノルウェー疥癬の場合、剥がれ落ちた垢にダニが含まれてるため、床や家具の拭き掃除が必要になる。
掃除機をかけるときも、フィルターの処理に注意する。
過剰な対応を避けることも大切
過剰な感染予防処置を行ってスタッフが疲弊しないようにするのが、集団感染対策の要点だ。通常疥癬では、標準予防策(手洗い・グローブ)で十分なことが多い。ノルウェー疥癬と通常疥癬では対応のレベルが異なる。
介護職員・ご家族が日常でできること
疥癬対策で一番大切なのは、早期発見や。
発見が早ければ早いほど、対応の規模は小さく済む。発見が遅れれば遅れるほど、広がりは大きくなる。
介護職員として心がけること
入浴介助や更衣介助のときに、利用者さんの皮膚を「見る」習慣をつけること。
特に手指の間、手首、腹部、陰部——疥癬が出やすい部位を、意識的に確認する。
「かゆそうにしてる」「夜中にかゆみを訴える」「皮膚に赤みや発疹がある」——これらのサインを見逃さへんこと。
気になったら、抱え込まずにすぐ報告・相談する。
「自分が感染させるかもしれない」という意識を持ちながら、グローブの適切な使用・手洗いの徹底を習慣にする。
ご家族として知っておくこと
施設に家族を預けている場合、面会に行ったときに皮膚の状態を確認する習慣を持っておくことが大切や。
「最近かゆそうにしてる」「手に赤いぶつぶつがある」——そういうことに気づいたら、施設のスタッフに伝えることをためらわへんでほしい。
施設側の「問題ない」という言葉を鵜呑みにせず、気になれば繰り返し確認することも必要な場合がある。
また、施設から「疥癬が発生しました」という連絡が来たとき——過度に怖がる必要はない。
疥癬の潜伏期間は長いが、発症者を的確に診断・治療し、角化型疥癬への進展を防げば、集団発生は必ず終息する。
施設が適切に対応していれば、必ず終息する感染症や。
疥癬は、知識があれば怖くない。
でも、知識がないまま発見が遅れると——現場は一気に大変なことになる。
介護職員のみなさんも、施設に家族を預けてるみなさんも——この記事が「疥癬を知るきっかけ」になったなら、夜勤明けにこれを書いてる甲斐があるってもんや。
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