夜勤介護マンの日記
夜勤介護マン
夜勤介護マンが、介護現場での経験と、執筆時点で確認できた公的機関・学会などの情報をもとに書いています。個人・施設が特定されないよう内容は一般化しています。介護職の視点からの解説であり、医師による診断や治療に代わるものではありません。個別の症状については、必ず担当の医師・看護職や医療機関へご相談ください。
高齢者の腎盂腎炎|膀胱炎との違いと、介護職・家族が気づける「普段との違い」
家族が急に熱を出して、病院で「腎盂腎炎(じんうじんえん)」と言われた。膀胱炎と何が違うのかが、説明を聞いてもよう分からんかった。あるいは、担当している利用者さんが、熱は大して高くないのに二、三日ずっと元気がなくて、尿が濁っている。そんなところで検索してきた人が多いと思います。
腎盂腎炎は、膀胱炎と地続きの病気でありながら、体への負担のかかり方がまるで違います。そして高齢者の場合、教科書に載っている典型的な症状がそろわないまま進むことがある。ワイは介護現場に約20年おりますが、この「そろわない」というところが、介護職にとっても家族にとっても一番やっかいなところやと感じています。この記事では、腎盂腎炎そのものを整理したうえで、介護職と家族が日常のなかで何を拾えるのかを順番に見ていきます。
この記事で分かること
- 腎盂腎炎が尿路のどこで起きている病気で、膀胱炎とどこが決定的に違うのか
- 悪寒・戦慄をともなう高熱、側腹部や腰背部の痛みなど、典型的とされる症状
- 高齢者ではその典型症状がそろわず、食欲低下や活気のなさが先に出ることがある理由
- 尿の濁りやにおいだけでは感染症と決められない理由と、その根拠
- 尿道留置カテーテル(バルーン)使用者で特に注意すること、介護職ができる行為の範囲
- 介護職が日々の介助で拾える変化と、看護職へ伝えるときの並べ方
- 病院での検査・治療の流れ、敗血症へ進むときに見られる変化、受診を急ぐサイン
目次
- 腎盂腎炎とは|尿路のどこで、何が起きている病気か
- 膀胱炎と腎盂腎炎は、どこが決定的に違うのか
- なぜ腎臓まで細菌が届くのか|原因菌と、高齢者で起こりやすくなる背景
- 腎盂腎炎の典型的な症状|悪寒・戦慄をともなう高熱と、側腹部の痛み
- 高齢者では、その典型症状がそろわないことがある
- 「急にぼんやりしたら尿路感染」と決めつけない
- 介護職が日々の介助のなかで拾える変化
- 尿の色・濁り・においだけでは、感染症とは決められない
- 尿道留置カテーテルと腎盂腎炎|介護職ができること・できないこと
- 看護職へ伝えるとき、何をどの順で並べるか
- 病院では何を調べるのか|尿検査・尿培養・血液検査・画像
- 腎盂腎炎の治療|抗菌薬と、入院が必要になる場合
- 腎盂腎炎が怖い理由|菌血症・敗血症へ進むことがある
- 水分は「たくさん飲ませればいい」ではない
- 腎盂腎炎を繰り返す人で確認されている背景
- 家族が自宅で気づきたい変化と、受診を急ぐサイン
- よくある質問
- まとめ|尿を見るのではなく、その人を見る
腎盂腎炎とは|尿路のどこで、何が起きている病気か
腎臓は、背中側の腰よりやや上あたりに左右一つずつあります。全身の血液から老廃物を取り除いて尿をつくる臓器で、そこでできた尿がいったん集まる部屋のような部分を腎盂と呼びます。腎盂に集まった尿は、尿管を下って膀胱にたまり、尿道から外へ出ていく。この一本の道筋が尿路です。
本来、膀胱から上の尿路には細菌はいません。そこへ細菌が入り込んで炎症を起こしたものが尿路感染症で、細菌がどこで増えたかによって呼び名が変わります。尿道で起きれば尿道炎、膀胱で増えれば膀胱炎、腎盂から腎臓の実質にまで炎症が及んだものが腎盂腎炎です。厚生労働省の重篤副作用疾患別対応マニュアルでは、尿路感染症のなかで最も症状が強く、時に敗血症の原因となるのが急性腎盂腎炎だと位置づけられています。
侵入の経路として最も多いのは、尿道の出口から入った細菌が尿の通り道をさかのぼっていく上行性感染です。杏林大学医学部付属病院の解説でも、この上行性のルートが最多で、血流に乗って腎臓へたどりつく血行性感染はまれだと説明されています。つまり腎盂腎炎の多くは、膀胱炎と別物としてどこかから降ってわいたのではなく、下から順に上がってきた結果として起きている、ということになります。
もう一つ、経過による分け方があります。急激に発症するものが急性腎盂腎炎、抗菌薬への反応が十分でなかったり炎症を繰り返したりして長く続くものが慢性腎盂腎炎です。同マニュアルによれば、慢性腎盂腎炎は腎不全へ進行して透析導入の原因となりうる病気でもあります。介護現場で「また熱が出た」と繰り返される場面には、この慢性の側面が関わっていることがあります。
膀胱炎と腎盂腎炎は、どこが決定的に違うのか
検索で一番多いのがこの疑問やと思います。違いを一言でいうと、炎症が下部尿路(膀胱)でとどまっているか、上部尿路(腎盂・腎臓)まで及んだかです。そして、この場所の違いが、体への負担の差としてはっきり現れます。
膀胱炎の症状は、頻尿、排尿時の痛み、残尿感、尿の濁りなど、膀胱と尿道まわりに限られます。済生会の解説では、膀胱だけの炎症であれば通常は発熱をきたさないとされており、だからこそ膀胱炎の症状に発熱が加わったときには腎盂腎炎の可能性が考えられる、という順序になります。介護職として押さえておくとよいのは、この「発熱がひとつの分かれ目になる」という構造のほうです。
ただし、この分かれ目は高齢者ではきれいに機能しません。そこは次の章以降で扱うとして、まず基本形を表で整理します。
| 項目 | 膀胱炎 | 腎盂腎炎 |
|---|---|---|
| 炎症の場所 | 膀胱(下部尿路) | 腎盂・腎臓の実質(上部尿路) |
| 主な自覚症状 | 頻尿、排尿時痛、残尿感、尿の濁り | 膀胱炎の症状に加えて、全身にわたる症状 |
| 発熱 | 通常は起こらないとされる | 38度以上の高熱が多く、悪寒・戦慄をともなうことがある |
| 痛む場所 | 下腹部の不快感 | 感染した側の側腹部・腰背部。医師の診察では肋骨脊椎角の叩打痛を確認する |
| 全身症状 | 乏しい | 強い。倦怠感、悪心・嘔吐をともなうことがある |
| 重症化 | 適切に治療されれば低い | 菌血症・敗血症へ進むことがある |
| 高齢者での見え方 | 訴えが出にくく気づかれにくい | 高熱が出ないこともあり、食欲低下や活気のなさが前面に出ることがある |
表の一番下の行が、この記事でいちばん伝えたいところです。上の六行は医学の教科書どおりの話ですが、最後の一行だけは現場の話になっている。ここがずれるから、高齢者の腎盂腎炎は見つけにくいわけです。
なぜ腎臓まで細菌が届くのか|原因菌と、高齢者で起こりやすくなる背景
原因菌については、はっきりした偏りがあります。厚生労働省のマニュアルでは、起炎菌の80%以上が大腸菌とされています。杏林大学医学部付属病院の解説では大腸菌による感染が約9割に達するとされ、そのほかに緑膿菌などのグラム陰性桿菌、腸球菌が挙げられています。要するに、腸のなかにいる菌が、外陰部から尿道へ入り込むというのが基本の筋書きです。
ここから、なぜ高齢者で起こりやすくなるのかが見えてきます。同マニュアルがリスク因子として挙げているのは、女性であること、尿の流れが滞る尿路の基礎疾患(尿路結石、膀胱尿管逆流、水腎症、神経因性膀胱、尿道留置カテーテルなど)、水分摂取量が少ないこと、過労などです。
高齢者は、このうち複数を同時に抱えていることが珍しくありません。男性では前立腺肥大症によって尿の勢いが弱まり、排尿後も膀胱に尿が残る。女性では加齢にともなう変化に加えて、もともと尿道が短いという解剖学的な条件がある。神戸労災病院の解説でも、高齢者は免疫力や体力が低下していることが多く、感染症にかかりやすい、あるいは重症化しやすい傾向にあると説明されています。
そこへ介護現場特有の条件が重なります。認知症があって尿意をうまく伝えられない、トイレまでの移動に介助が要るので我慢してしまう、飲み込みが心配で水分をあまり勧められていない、おむつを使っていて陰部が湿った状態が続きやすい。どれも一つひとつは「よくあること」ですが、尿がたまり続ける条件と、菌が入りやすい条件を同時に作っています。細菌にとって、たまった尿は増えるための場所です。
腎盂腎炎の典型的な症状|悪寒・戦慄をともなう高熱と、側腹部の痛み
まず、典型とされる形を正確に押さえておきます。ここを知らないと、そこから外れていることにも気づけません。
厚生労働省のマニュアルが挙げている急性腎盂腎炎の症状は、悪寒・戦慄をともなう高熱、感染した側の側腹部痛、肋骨脊椎角部の叩打痛、悪心・嘔吐で、全身症状が強く出るとされています。とくに寒気、ふるえ、発熱、わき腹や腰の痛みは早い段階から現れるため、これらが出たらすみやかに受診するよう促されています。
悪寒と戦慄は、単なる「寒がっている」ではない
ここは言葉の意味を分けておいたほうがええと思います。悪寒はぞくぞくする寒気のこと、戦慄は歯がガチガチ鳴るほどのふるえのことです。厚生労働省のマニュアルでは、この二つをともなう高熱が急性腎盂腎炎の特徴として最初に挙げられています。毛布を足しても止まらないレベルのふるえは、部屋が寒いのとは別の現象やと考えたほうがいい。
痛みの場所と、介護職の立ち位置
痛むのは感染した側の側腹部から腰背部です。肋骨脊椎角の叩打痛というのは、背中の肋骨と背骨が作る角のあたりを叩いて痛みが出るかを見る診察手技ですが、これは医師が診察のなかで確認するものです。介護職が自分で叩いて確かめるものではありません。
介護職が拾えるのは、そういう検査所見ではなく反応のほうです。清拭や更衣で体位を変えたときに顔をしかめる、いつもは問題なくできる寝返りを嫌がる、背中側に触れると身をよじる。言葉で「腰が痛い」と言えない方の場合、痛みはそういう形でしか出てきません。これは診察ではなく、日々の介助の副産物として得られる情報です。
尿と排尿に出る変化
尿については、膿尿(尿に膿が混じって濁る)、細菌尿、血尿が挙げられています。自覚症状としては、膀胱炎と同じ頻尿・排尿時痛・残尿感が先行していることもあります。ただし尿の見た目だけで判断してはいけない理由があり、それは後の章でまとめて扱います。
高齢者では、その典型症状がそろわないことがある
前の章に書いた形は、あくまで典型例です。高齢者では、これがそろわないまま進むことがあります。
複数の医療機関の解説が一致して指摘しているのが、高齢者では排尿時痛や高熱といった分かりやすい症状が出にくく、代わりに非特異的な変化が前面に出るという点です。挙げられているのは、食欲が落ちた、元気がない、眠ってばかりいる、急に認知症が進んだように見える、意識がぼんやりする、転倒が増えた、といった変化です。訪問診療の現場からも、微熱が続く、いつもより元気がない、食事量が減った、失禁が増えたといった些細な変化が疑うきっかけになると報告されています。
もう一つ、慢性の側面も知っておく価値があります。厚生労働省のマニュアルでは、慢性腎盂腎炎の慢性期の症状として、微熱、全身倦怠感、食欲不振、腰痛、体重減少といった非特異的で軽微なものが挙げられています。急性のような派手さがない。数週間かけて少しずつ食が細くなり、体重が落ちていくという経過は、腎盂腎炎という病名からはなかなか結びつきません。
ワイが約20年やってきて思うのは、高齢者の場合、症状が「出ていない」のではなく「別の形で出ている」ことが多いということです。38度の熱と側腹部痛という札を掲げてくれる人ばかりではない。むしろ、いつも完食する人が半分残した、いつも自分で車椅子を漕ぐ人が今日は動かない、そういう形で先に出てくることがある。そして、それを一番先に見ているのは、たいてい医師でも看護職でもなく、食事介助と排泄介助に入っている介護職です。
注意:ここに挙げた変化は「高齢者では典型症状が出ないこともある」という一般的な傾向であって、これがあれば腎盂腎炎だという意味ではありません。判断は医療職が行います。介護職と家族の役割は、変化に気づいて、事実として伝えるところまでです。
「急にぼんやりしたら尿路感染」と決めつけない
前の章と逆向きの注意を、ここで一つ入れておきます。高齢者の急な意識変化やせん妄を、反射的に尿路感染症と結びつけてしまうのは危ないということです。
日本老年医学会の資料では、高齢者のせん妄の原因が幅広く整理されています。脳血管障害や慢性硬膜下血腫といった中枢神経の病気、脱水、電解質異常、低血糖、腎不全、肝不全といった代謝性の問題、うっ血性心不全や急性心筋梗塞、不整脈といった循環器の問題、呼吸不全、貧血、疼痛、尿閉、便秘、入院や入所といった環境変化、そして睡眠薬や抗不安薬をはじめとする薬剤。尿路感染症はそのなかの一つとして挙がっていますが、あくまで一つです。
ここを間違えると、二方向に事故が起きます。一つは、本当は低血糖や薬剤性だった変化を尿路感染と思い込んで、対応が遅れること。もう一つは、症状がないのに尿に細菌がいるだけの状態を感染症と見なして、必要のない抗菌薬が使われることです。
後者については、厚生労働省の抗微生物薬適正使用の手引きが明確な立場を示しています。無症候性細菌尿については、妊婦、泌尿器科的な侵襲的処置の前、腎移植後1か月以内といった特殊な背景がない場合、通常は治療の対象とはならないとされています。米国感染症学会のガイドラインでも、健康な女性、高齢の男女、糖尿病や尿道留置カテーテルのある人などでは治療は推奨されていません。不要な抗菌薬の使用は、薬剤耐性菌が出てくるリスクを高めるためです。
だから、介護職が申し送りで言うべきは「尿路感染やと思います」ではなく、「昨日から反応が鈍い、食事量が三割、体温は37.2度、尿は濁っている」という事実の並びです。診断名を先に置くと、そこから外れた可能性が検討されにくくなります。
介護職が日々の介助のなかで拾える変化
では、具体的に何を見るのか。ここは抽象的に「観察しましょう」で終わらせても意味がないので、介助の場面ごとに分けて整理します。
食事介助の場面で
食事量そのものより、いつもとの落差のほうが情報になります。普段10割の人が7割になったのか、普段から5割の人が5割なのか。同じ「5割」でも意味が正反対です。あわせて、飲み込みが悪くなっていないか、途中で寝てしまわないか、食事中の姿勢が保てているか。水分摂取量も、この場面でしか正確に取れません。
排泄介助の場面で
排尿の回数、一回量の感じ、間隔。おむつ交換であれば、パッドの濡れ具合が普段と比べて多いのか少ないのか。尿の色と濁り、においも見ますが、これは単独では判断材料にならないので後述します。それより意味があるのは、トイレでの排尿に時間がかかるようになった、排尿後にすぐまた訴える、失禁が急に増えたといった変化のほうです。
入浴・清拭・更衣の場面で
身体に直接触れる数少ない場面なので、情報量が多い。背中や側腹部に触れたときの反応、身体の熱感、皮膚の乾き具合、脇の下の湿り気。悪寒があるときの、毛布を重ねても止まらないふるえ。ここで感じた違和感は、体温計の数字より早く出ることがあります。
移乗・移動・レクの場面で
活気そのものです。自分で立とうとするか、車椅子を漕ぐか、話しかけに返ってくる速さはどうか。ふらつきが増えていないか。転倒が増えたという変化も、体調不良のサインとして挙げられています。
夜間の巡回で
夜勤帯は、日中に見えないものが見えます。眠れているか、逆に寝てばかりか。夜間の排尿回数、失禁の有無。呼びかけへの反応。同じ人を一晩に何回か見るので、変化の速さが分かるのは夜勤の強みです。ワイ自身、夜中の巡回でいつもと違う呼吸の音や汗のかき方に気づいて、朝の申し送りに残したことは何度もあります。
夜間に確認する項目全体は、介護施設の夜間巡回は何を確認するのかで詳しく整理しています。
尿の色・濁り・においだけでは、感染症とは決められない
これは介護現場でいちばん誤解されやすいところなので、章を分けて書きます。
「尿が濁ってる」「臭いがきつい」から尿路感染症や。この推論は、成り立たないことがあります。理由は前にも触れた無症候性細菌尿です。症状がないのに尿のなかに細菌がいる状態は、高齢者では珍しくありません。とくに尿道留置カテーテルを使っている方では、留置している時点で尿に細菌がいるのが通常の状態に近くなります。そこで尿の濁りだけを見て感染症と判断すると、必要のない抗菌薬につながります。
日本泌尿器科学会の泌尿器科領域における感染制御ガイドラインでも、尿の混濁に対する開放式の膀胱洗浄は、カテーテルの閉塞や発熱の頻度を減らさないとされています。抗菌薬による膀胱洗浄も尿路感染症の頻度を減少させないと明記されています。濁っているから洗う、という発想そのものが有効性を確認されていないわけです。
逆方向の誤りもあります。尿がきれいに見えるから大丈夫、というのも成り立たない。腎盂腎炎の主戦場は腎臓であって、尿の見た目は炎症の程度をそのまま映すものではありません。
では尿を見る意味がないのかというと、そうではない。意味があるのは、尿の所見を全身の状態と一緒に並べたときです。厚生労働省のマニュアルにあるとおり、診断は臨床症状と検査結果の両方で行われます。発熱、悪寒、全身状態、痛み、血圧、意識、食事量、水分量、排尿の症状、そして普段との違い。そこへ尿の情報が加わってはじめて、医療職が評価できる材料になります。尿の情報は、単独では判断できないが、束にすると意味を持つ。そういう性質のものやと考えるとしっくりきます。
尿道留置カテーテルと腎盂腎炎|介護職ができること・できないこと
尿道留置カテーテル、現場でいうバルーンは、腎盂腎炎を語るうえで外せない要素です。厚生労働省のマニュアルでも、留置膀胱カテーテルは尿の流れが滞る尿路の基礎疾患の一つとしてリスク因子に挙がっています。
なぜリスクになるのか
菌の侵入経路がはっきりしています。医療機関の感染対策マニュアルで整理されているのは、カテーテルと採尿バッグの接続部の閉鎖が破られて微生物が入る経路と、採尿バッグの排液口から入ってバッグ内の尿が汚染される経路、そして会陰部や直腸にいる菌がカテーテルと尿道のすき間を通って入る経路です。また、短期間の留置では大腸菌などの腸内細菌が多いのに対し、1か月以上の長期留置では緑膿菌やセラチア、黄色ブドウ球菌など耐性菌が増えてくるとされています。
介護職が「原則として医行為ではない行為」として行えること
ここは施設ごとの取り決めより前に、国の整理を知っておいたほうがええです。厚生労働省は、平成17年および令和4年12月の医政局長通知で、介護現場で判断に迷う行為のうち原則として医行為ではないものを整理しており、さらに介護職員が安全に実施できるようガイドラインを公表しています。膀胱留置カテーテル関係として挙げられているのは、蓄尿バッグからの尿廃棄(DIBキャップの開閉を含む)、蓄尿バッグの尿量および尿の色の確認、チューブを留めているテープが外れた場合にあらかじめ明示された位置へ貼り直すこと、そして医師または看護職員が専門的管理が必要ないと確認した場合に限っての陰部洗浄です。
逆に、カテーテルそのものの挿入や交換、膀胱洗浄は介護職が行うものではありません。ここは線が引かれています。
日常の介助で確認する点
感染対策の観点から挙げられているのは、蓄尿バッグを常に膀胱より低い位置に保つこと、バッグを床につけないこと、チューブがねじれたり折れたりしていないこと、接続部を不用意に外さないことです。車椅子へ移乗する前にはバッグを空にしてから移動し、引きずらないように膀胱より低い位置で固定します。尿の廃棄には手袋を着け、排液口を容器につけない。
実際に管の引っかかりで危険を感じた場面は、歩ける利用者とバルーンの管が引っかかった入所初夜の話に書いています。
あわせて見ておきたいのが、カテーテルの脇から尿が漏れていないか、テープの固定が外れてチューブが引っ張られていないか、そして尿の流出が止まっていないか。尿が流れずに滞ると、そこから発熱をともなう尿路感染につながりうるとされています。
「原則として医行為ではない行為」とされていても、病状が不安定であるなど専門的な管理が必要な場合には医行為とされることがあります。実際にどこまで行うかは、本人・家族・介護職員・看護職員・主治医などが事前に合意したうえで決まるものです。この記事の記載を全国共通の正解として運用せず、必ず所属先の手順と医療職の指示を優先してください。
看護職へ伝えるとき、何をどの順で並べるか
変化に気づけても、伝わらなければ動きません。逆に、材料が整理されて渡れば、看護職はそのぶん早く判断できます。ここは介護職の技術が一番はっきり出るところやと思っています。
並べ方の骨格はシンプルで、「いつから」「何が」「どのくらい」の三つです。そのうえで、腎盂腎炎を念頭に置くなら、伝えると役に立つ項目はある程度決まっています。
| 区分 | 伝えたい内容 |
|---|---|
| 時間の情報 | いつから変化したか。今日からか、数日前からか。だんだんか、急にか |
| バイタル | 体温(測った時刻も)、血圧、脈拍、呼吸の様子。普段の値との差 |
| 悪寒・ふるえ | 寒がっているか、ふるえがあるか、毛布を足しても止まらないか |
| 痛みの訴え | 言葉での訴えの有無。どの場面で表情や動きが変わるか。背中側・わき腹に触れたときの反応 |
| 食事・水分 | 食事量(普段との比較で)、水分量、飲み込みの様子 |
| 排尿 | 尿量、排尿回数、間隔、失禁の増減、排尿時の様子 |
| 尿の性状 | 色、濁り、におい、血液の混入。ただし単独では判断材料にしない |
| 全身・意識 | 活気、反応の速さ、傾眠、落ち着かなさ、ふらつき、転倒の有無 |
| カテーテル | 留置の有無。ある場合は尿の流出、バッグの位置、漏れ、固定の状態 |
| 背景 | 普段の状態がどうであるか。同じ変化が過去にもあったか |
この表で一番大事なのは、右の列にどれも「普段との比較」が入っていることです。体温37.3度という数字は、それだけでは高いとも低いとも言えません。普段が36.2度の人の37.3度と、平熱が37度前後の人の37.3度では、意味がまったく違う。介護職が持っている強みは、まさにその「普段」を知っていることです。
もう一つ。推測と事実を混ぜないほうがええです。「尿路感染やと思うんですけど」と前置きすると、聞いた側がその枠で情報を受け取ってしまいます。事実を先に並べて、思ったことは最後に分けて言う。この順番だけで、伝わり方はだいぶ変わります。
なお、報告の手順や記録の様式は事業所によって異なります。ここに書いたのは項目の考え方であって、特定の手順を全国共通の正解として示すものではありません。
病院では何を調べるのか|尿検査・尿培養・血液検査・画像
家族から「病院で何をされるんですか」と聞かれることがあります。おおまかな流れを知っておくと、説明を聞くときの理解が違ってきます。
厚生労働省のマニュアルによれば、診断は臨床症状と検査結果によって行われます。検尿では膿尿、細菌尿、血尿が確認され、炎症が腎臓の実質にまで及んでいる場合には、尿沈渣で白血球円柱という所見が見られることがあります。血液検査では、好中球を主体とした白血球の増加とCRPの高値という炎症の反応を確認します。
培養検査も重要です。同マニュアルでは、抗菌薬を使う前に中間尿の培養や血液培養と感受性検査を行うとされています。これは、どの菌が原因かと、その菌にどの薬が効くかを調べるためのものです。結果が出るまでには数日かかるため、それまでは想定される菌への効き方や腎臓・尿路への薬の届きやすさ、腎機能などを考慮して薬が選ばれます。
画像検査が加わることもあります。腹部超音波検査では、まず尿の通り道に詰まりがないかを確認します。腎臓が腫れていないか、実質のなかに炎症を示す所見がないか。造影CTでは、腎膿瘍や腎周囲膿瘍、気腫性腎盂腎炎といった、より重い病態が評価できるとされています。水腎症や膿瘍の形成をともなう場合には、泌尿器科的な処置が必要になることもあります。
介護職として押さえておくとよいのは、この一連の検査が「尿を見て決める」ものではないという点です。尿検査は材料の一つで、血液検査、培養、画像、そして臨床症状が合わさって評価される。だからこそ、こちらから渡す情報は尿の話だけでなく、全身の状態を含んだ束であるほうが役に立ちます。
腎盂腎炎の治療|抗菌薬と、入院が必要になる場合
治療の中心は抗菌薬です。細菌の感染が原因である以上、そこは動きません。
厚生労働省のマニュアルによれば、初期に選ばれた薬が適切であれば3〜5日で解熱し、症状の改善が見られます。3日経っても改善の傾向がない場合には抗菌薬を変更し、培養で原因菌が判明したあとは感受性の結果に基づいて薬を切り替えます。投与期間の基本は14日間とされています。徳洲会グループの解説でも、治療期間は通常1〜2週間で、治療終了後に再発の有無を確認するため一定期間をおいて尿検査を行うと説明されています。
通院で済むか入院になるかの分かれ目も示されています。症状が軽く全身状態がよく、口から食べたり飲んだりできる場合は外来での治療が可能とされ、安静と水分摂取が勧められます。一方、臨床症状が強く菌血症が疑われる場合は、入院して安静にする治療の適応となり、点滴による補液と抗菌薬の静脈内投与が基本になります。敗血症や多臓器不全に至れば、集中治療室での管理が必要になることもあります。
介護職として意識しておきたいのは、この「3〜5日で解熱する」という目安のほうかもしれません。抗菌薬が始まったのに熱が下がらない、あるいはいったん下がってまた上がった。その事実は、薬の変更や再評価が必要かどうかを医療職が考える材料になります。夜勤帯で測った体温の記録が、翌朝の判断に直接つながる場面です。
注意:抗菌薬の種類、量、期間はすべて医師が個別に決めるものです。処方された薬を自己判断で中止したり、以前に出た薬が残っているからと使い回したりすることは絶対に避けてください。症状が消えても、指示された期間は飲みきることが基本です。
腎盂腎炎が怖い理由|菌血症・敗血症へ進むことがある
ここは、脅かすためではなく正確に書きます。すべての腎盂腎炎が敗血症になるわけではありません。多くは治療に反応します。ただ、そうならない場合があるから、早く気づくことに意味がある、という話です。
腎臓は血流量の多い臓器です。神戸労災病院の解説では、逆にいえば細菌が血管内に侵入して敗血症という病気を引き起こす可能性もあるため、思い当たることがあれば早めに医療機関の受診を検討してほしいと呼びかけられています。厚生労働省のマニュアルでも、急性腎盂腎炎は致死性の敗血症に至る可能性がある急性の化膿性炎症だとされ、患者の全身状態によっては敗血症に至り死亡することもあると明記されています。
敗血症は、感染をきっかけに全身へ強い反応が及び、臓器の働きに障害が出る状態です。指標として用いられてきた項目には、体温が38度を超える、あるいは36度を下回ること、脈が1分間に90回を超えること、呼吸が1分間に20回を超えることなどが含まれます。さらに進んで血圧が下がり続ける状態が敗血症性ショックで、意識障害や多臓器不全に至れば命に関わります。済生会の解説では、65歳以上の高齢者は敗血症のリスクが高い群として挙げられています。
ここで介護職と家族に知っておいてほしいのは、体温の項目に「36度を下回る」が入っていることです。熱が出るのが感染症のサインだと思っていると、体温が下がっていく変化を見落とします。ふるえが止まらないのに体温が上がってこない、皮膚が冷たく湿っている、呼吸が浅く速い、呼びかけへの反応が鈍い。こういう組み合わせは、熱が高いことより深刻な場合があります。
水分は「たくさん飲ませればいい」ではない
尿路感染症の話になると、必ず「水分をしっかり摂りましょう」が出てきます。実際、厚生労働省のマニュアルでも、予防として陰部を清潔に保つこと、水分を多めに摂ること、尿を膀胱にあまり溜めないうちに排尿することが挙げられており、1日1,500mL以上という目安も示されています。細菌が腎盂まで上がってこないよう尿で洗い流す、という考え方です。
ただ、この数字を介護現場でそのまま全員に当てはめるのは危険です。神戸労災病院の解説では、水分をしっかり摂取するという記載のすぐあとに、心不全などの基礎疾患がある方はかかりつけの医師に相談するようにという但し書きが添えられています。ここが抜け落ちると話が変わってしまいます。
心臓の機能が落ちている方に水分を多く入れれば、心不全が悪化することがあります。腎機能が低下している方も同じです。医師から水分制限が出ている方もいます。つまり、適切な水分量は疾患によって違い、同じ施設のなかでも人によって違う。「尿路感染の予防やから」という理由で一律に増やすのは、別の危険を持ち込むことになります。
介護職ができることは、量を勝手に決めることではなく、実際に飲めた量を正確に把握して伝えることです。そして、飲む量が減っているなら、その理由を見ることです。飲み込みが心配で本人が控えているのか、コップが持ちにくいのか、トイレに行くのが大変だから我慢しているのか、そもそも勧められる回数が少ないのか。原因が違えば手立ても違います。
経口補水液との使い分けは、OS-1は普段の水分補給用やない理由で別に整理しています。
ワイの実感では、水分が入らない理由の一番多いところは、飲み物そのものより「トイレが面倒」やったりします。介助が要るから遠慮する。夜中に呼ぶのが申し訳ない。そう思っている方は、勧めても口をつけません。そこは水分量の話ではなく、排泄介助の呼びやすさの話になります。
個別の水分量は、必ず医師・看護職の指示を優先してください。この記事に書いた1,500mLという数字は、公的資料に示された一般的な目安であって、基礎疾患のある方や水分制限のある方に当てはまるものではありません。
腎盂腎炎を繰り返す人で確認されている背景
一度治っても、また熱が出る。この繰り返しには、たいてい背景があります。
厚生労働省のマニュアルは、腎盂腎炎を尿の流れが滞る基礎疾患の有無によって複雑性と単純性に分けています。基礎疾患として挙げられているのは、尿路結石、膀胱尿管逆流、水腎症、神経因性膀胱、尿管の奇形、留置膀胱カテーテルなど。そして急性腎盂腎炎は単純性のことが多いのに対し、慢性腎盂腎炎は複雑性のことが多いとされています。つまり繰り返すという現象そのものが、尿路に何か滞る条件があることを示唆している場合がある、ということです。
済生会の解説でも、回復が遅れる場合や腎盂腎炎を繰り返す場合には、泌尿器科で尿路の精密検査を受ける必要があるとされています。杏林大学医学部付属病院の解説では、繰り返す場合に尿の通り道の生まれつきの異常が関わっていることもあると触れられています。
高齢者で確認されやすい背景としては、男性の前立腺肥大症による残尿、神経因性膀胱、尿路結石があります。また、便秘が続くと大腸で悪玉菌が増えるため尿路感染症のリスクが高まるとする指摘もあり、排便のコントロールも無関係ではありません。日本泌尿器科学会のガイドラインでも、尿の性状に問題がある場合の対応として、カテーテル留置の必要性の再検討、排便のコントロール、尿量の確保が挙げられています。
介護職の立場でできるのは、繰り返しを「またか」で流さず、記録として残しておくことです。前回はいつだったか、何がきっかけだったか、そのとき何が変わっていたか。三回目でようやくパターンが見えることがあります。そのパターンは、看護職やケアマネジャー、医師が背景を探すときの手がかりになります。
家族が自宅で気づきたい変化と、受診を急ぐサイン
ここまでは主に施設の話が多かったので、在宅で介護している家族向けに整理し直します。
日常のなかで気にかけたい変化
毎日そばにいる家族は、実は変化に気づきにくい立場でもあります。少しずつの変化は、慣れてしまうからです。だから、何を見るかをあらかじめ決めておくほうが確実です。食事量、水分量、トイレの回数、日中の起きている時間、会話の返り方。この五つを、なんとなくでよいので頭に置いておく。数値化する必要はありません。「今週は先週より明らかに食べてない」くらいで十分です。
あわせて、尿の変化、失禁が急に増えたこと、微熱が続くこと、体重が落ちてきたこと。前に書いたとおり、慢性腎盂腎炎の慢性期には、微熱、倦怠感、食欲不振、腰痛、体重減少といった軽微な症状が並びます。これらが数週間続いているなら、それ自体が受診の理由になります。
早めに医療機関へ相談したい変化
次のような変化があるときは、様子を見る前に相談してください。
悪寒やふるえをともなう高熱があるとき。わき腹や腰、背中に強い痛みを訴えるとき。食事も水分もほとんど取れないとき。吐き気や嘔吐があるとき。ぐったりして起き上がれないとき。呼びかけへの反応がいつもと明らかに違うとき。呼吸が浅く速いとき。血圧がいつもより大きく下がっているとき。そして、熱が出ないまま体温がむしろ下がり、皮膚が冷たく湿っているとき。
自分で病名を判断する必要はありません。むしろ判断しようとしないほうがいい。「腎盂腎炎かどうか」ではなく、「普段と比べてここまで違う」という事実を医療機関へ伝えることが、家族にできる最も確実な役割です。
受診のときに持っていくと役に立つもの
いつからどう変わったかのメモ、測った体温とその時刻、飲んでいる薬の一覧、これまでに尿路感染症を起こしたことがあるかどうか。とくに薬の一覧は重要で、前の章に書いたとおり、せん妄の原因には薬剤も含まれています。お薬手帳をそのまま持っていくのが確実です。
よくある質問
A.濁りだけでは判断できません。症状がないのに尿に細菌がいる無症候性細菌尿は高齢者では珍しくなく、厚生労働省の手引きでも特殊な背景がなければ通常は治療の対象にならないとされています。尿の所見は、発熱や全身状態、痛み、意識、食事量などと合わせて医療職が評価するものです。
A.典型的な高熱が出ないまま、食欲低下、活気のなさ、傾眠、意識のぼんやり、転倒の増加といった非特異的な変化が前面に出ることがあると複数の医療機関が指摘しています。さらに敗血症の指標には体温が36度を下回ることも含まれており、熱が上がらないこと自体が軽症を意味するわけではありません。
A.炎症が膀胱でとどまっているのが膀胱炎、腎盂から腎臓の実質まで及んだのが腎盂腎炎です。膀胱だけの炎症では通常は発熱しないとされるため、膀胱炎の症状に高熱や側腹部・腰背部の痛みが加わったときは腎盂腎炎の可能性が考えられます。ただし高齢者ではこの分かれ目がはっきりしないことがあります。
A.必ずではありませんが、尿道留置カテーテルは尿の流れが滞る要因としてリスク因子に挙げられています。接続部を外さない、蓄尿バッグを膀胱より低い位置に保つ、床につけない、チューブをねじれさせないといった管理が基本です。一方で、カテーテル使用者では尿に細菌がいること自体は珍しくないため、尿の濁りだけで感染症と決めることはできません。
A.治りません。腎盂腎炎の治療は抗菌薬が中心です。水分摂取は予防や治療中の補助として挙げられていますが、心不全や腎機能低下がある方、水分制限が出ている方では適量が異なります。個別の水分量は必ず医師・看護職の指示に従ってください。
A.必ずではありません。症状が軽く全身状態がよく、口から摂取できる場合は外来での治療が可能とされています。一方、臨床症状が強く菌血症が疑われる場合には、入院して点滴による補液と抗菌薬の静脈内投与を行う適応となります。判断は医師が行います。
A.厚生労働省の通知およびガイドラインでは、蓄尿バッグからの尿廃棄、尿量と尿の色の確認、外れたテープをあらかじめ決められた位置に貼り直すこと、医師または看護職員が専門的管理は不要と確認した場合の陰部洗浄が、原則として医行為ではない行為として挙げられています。カテーテルの挿入や交換、膀胱洗浄は含まれません。実際の運用は所属先の取り決めと医療職の指示に従ってください。
A.悪寒やふるえをともなう高熱、わき腹や腰背部の強い痛み、食事や水分がほとんど取れない、嘔吐、ぐったりして起き上がれない、呼びかけへの反応が明らかに違う、呼吸が浅く速い、血圧が大きく下がっている、体温がむしろ下がって皮膚が冷たく湿っている。こうした変化があるときは、様子を見ずに相談してください。
まとめ|尿を見るのではなく、その人を見る
この記事で扱ってきたことを、最後に一本の線でつなぎ直します。
腎盂腎炎は、膀胱で増えた細菌が腎臓まで上がって起きる感染症で、原因の8割以上は大腸菌です。典型的には悪寒・戦慄をともなう高熱と、感染した側の側腹部・腰背部の痛みが出ます。膀胱だけの炎症では通常熱が出ないため、発熱の有無がひとつの分かれ目になる。治療は抗菌薬で、適切なら3〜5日で解熱し、投与期間の基本は14日間。症状が強く菌血症が疑われれば入院になり、進めば敗血症に至ることもある。ここまでが、医学の側から見た輪郭です。
そして高齢者では、その輪郭がぼやけます。高熱が出ないことがあり、痛みを訴えられないことがあり、代わりに食欲の低下や活気のなさが先に出ることがある。慢性の経過では微熱と体重減少が数週間かけて進むこともある。だからといって「なんとなく変やから尿路感染」と決めつけると、今度は低血糖や薬剤性や心不全といった別の原因を見落とす。せん妄の原因は一覧にすればあれだけの数があります。
この両方が同時に成り立っている、というのがこの記事の結論です。典型症状がそろわないから気づきにくい。しかし気づいたものが腎盂腎炎とは限らない。介護職と家族が置かれているのは、その二つの間です。
そこで求められるのは、診断することではありません。ワイが約20年やってきて確信しているのは、介護職の役割は答えを出すことではなく、質のいい材料を渡すことやということです。尿の濁りだけを見て感染症と言い切ることもできないし、尿がきれいだから大丈夫とも言えない。渡すべきは、いつから、何が、どのくらい変わったのかという事実の束です。そしてその束をいちばん正確に作れるのは、その人の「普段」を知っている人だけです。
尿を見るのではなく、その人を見る。腎盂腎炎という病気について長々と書いてきましたが、現場で使える形にすると、たぶんそこに落ちます。今日の食事量が普段と違うと気づけたなら、それはもう十分に専門的な仕事をしています。
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参考情報(執筆時点で確認)
厚生労働省「抗微生物薬適正使用の手引き 第四版 薬剤耐性菌感染症の抗菌薬適正使用編」
厚生労働省「原則として医行為ではない行為について」(通知およびガイドライン)
日本泌尿器科学会「泌尿器科領域における感染制御ガイドライン」