夜勤介護マンの日記
※この記事は、夜勤介護マンが介護現場で実際に体験・見聞きした出来事をもとに書いています。個人・施設が特定されないよう、一部内容を変更・再構成しています。特定の個人・施設を批判する意図はありません。廃用症候群に関する一般的な医学情報は公的機関の情報を参照していますが、診断や治療、リハビリの方針については必ず医師・看護師・リハビリ職などの専門職へご相談ください。
廃用症候群とは?動かないことで動けなくなる高齢者の変化と予防
「できないから介助する」やなく「できることまで奪わない」。生活そのものが身体を使う機会になる
▷ この記事でわかること
- 廃用症候群とは何か、なぜ高齢者で特に注意がいるのか
- 身体や生活にどんな変化が起こりうるのか
- 介護職が生活の中でできる予防的な関わり
- 介護職がリハビリ職の代わりをするわけではないこと
- 動かせば動かすほど良い、とは言えない理由
目次
「この人、前は自分で歩いとったよな」
介護の現場で働いとると、こう思う瞬間が何度もある。数ヶ月前までは手すりを持って自分でトイレへ行けとった人が、気づいたら車椅子中心の生活になっとる。立ち上がるときに、前は必要なかった介助が要るようになっとる。
その変化の裏側で起きとることが多いのが、廃用症候群や。

※画像はイメージです(AI生成)
廃用症候群とは、動かんことで動けんようになること
廃用症候群とは、過度に安静にすることや、活動量が落ちた状態が続くことで、身体に生じるさまざまな状態のことを指す。
ここで押さえておきたいんは、これが病気やけがそのものによる症状やなくて、その後の「動かん時間」によって起こる二次的な問題やということや。
骨折して入院した。肺炎で数週間ベッドの上やった。転倒が怖くて外出せんようになった。きっかけは人それぞれやけど、共通しとるのは「身体を使う機会が減った状態が続いた」という一点になる。
災害の避難所生活などをきっかけに起こる場合は、生活不活発病という呼び方をされることもある。
なぜ高齢者では特に注意がいるのか
理由は大きく三つある。
一つ目は、短い期間の安静でも機能が落ちることがあること。特に高齢者では、活動量が落ちた状態が続くことで、筋力や筋肉量の低下が進みやすいため注意が必要になる。
どのくらいで落ちるのか
公益財団法人長寿科学振興財団の健康長寿ネットでは、絶対安静で筋肉の伸び縮みが行われない状態では1週間で1割から1割5分ほどの筋力低下が起こるとされ、高齢者では2週間の床上安静でも下肢の筋肉が2割ほど萎縮するとも言われている、と紹介されとる。
出典:健康長寿ネット(公益財団法人長寿科学振興財団)
二つ目は、気づきにくいこと。健康長寿ネットでも、高齢者では知らんうちに進んで、気づいた時には起き上がれん、歩けん、という状況になっとることが少なくないと書かれとる。ある日いきなり歩けんようになるわけやないから、途中の変化を誰かが拾わなあかん。
三つ目は、戻りにくいこと。一度そうなってしまうと、元の状態まで改善させるのは難しくなる。せやから廃用症候群は、治すことより予防することの方が重要やとされとる。
そしてこの三つが、悪循環を作る。動かんから体力が落ちる。体力が落ちるから、動くとすぐしんどくなる。しんどいからまた休む。休むからまた落ちる。この輪が回り出すと、止めるのがどんどん難しくなっていく。
現場で見てきた「じわじわ来る」変化
介護の現場で見る変化は、たいてい地味や。
― ワイの現場から ―
以前は歩いとった人が車椅子中心になる。自分で立てとった人が、立ち上がりに介助が要るようになる。着替えのときに腕が上がりにくくなっとる。ベッドで過ごす時間が長くなって、そのぶんまた動かんようになる。
身体のことだけやない。食事や排泄など日常生活そのものへの意欲が低下することもある。
状態が低下していく利用者さんへの関わりについては、ターミナルケアで介護職が見てきた最期の観察と報告の記事でも、現場での観察や報告の重要性を書いています。
一つひとつは小さい。せやから「最近ちょっと落ちてきたかな」くらいで流れてしまいやすい。気づいたときには、だいぶ進んどる。
それと、廃用症候群で起こりうることは、筋力低下だけやない。ここは知っといた方がええと思う。
廃用症候群で起こりうるとされる症状の種類
- 筋萎縮(筋肉がやせ衰える)
- 関節拘縮(関節の動きが悪くなる)
- 骨萎縮(骨がもろくなる)
- 心機能の低下、起立性低血圧
- 誤嚥性肺炎、血栓塞栓症
- 褥瘡(床ずれ)
- うつ状態、せん妄、見当識障害
- 逆流性食道炎、尿路感染症など
出典:健康長寿ネット(公益財団法人長寿科学振興財団)
身体の動きの話だけやなく、精神面にも及ぶ。最近ぼんやりしているように見える、といった変化も、別の角度から考えるきっかけになる。
介護職がリハビリ職の代わりをするわけやない
ここは先に、はっきり書いておきたい。
廃用症候群の予防が大事やというのは、介護職が自分の判断でリハビリをやったらええ、という話ではまったくない。
ワイは以前の勤務先で、リハビリ部門を1週間研修したことがある。
― ワイの現場から ―
あの研修の目的は、介護職が理学療法士や作業療法士の代わりになることやなかった。研修では、リハビリ職が利用者さんをどのように見て、何を目的に身体を動かしているのかを知る機会になった。
この研修を通して分かったのは、専門職の視点を借りることはできても、専門職の判断を代われるわけやない、ということやった。介護職が独断で訓練メニューを組むような話とは、まったく別の次元にある。
「できないから介助する」やなく「できることまで奪わない」
ほな介護職に何ができるんか。ワイはここが一番大事やと思っとる。
特別な訓練の時間を作ることやなくて、毎日の生活そのものを、身体を使う機会として考えるということや。
食事、排泄、更衣、移乗、離床。この一つひとつが、全部身体を動かす場面になっとる。リハビリの時間だけが身体を使う時間やない。むしろ、生活の中で使っとる時間の方が圧倒的に長い。
ところが現場が忙しいと、こうなりやすい。
本人が自分でボタンを留められるのに、待っとる時間がないから全部やってしまう。自分で立てるのに、そのほうが速いから抱えて移してしまう。一回一回は数十秒の差やけど、それが毎日、何ヶ月も積み重なる。
介護職ができる関わりを、具体的に挙げるとこうなる。
生活の中で身体を使う機会を奪わない関わり
- できる動作まで介助者が全部してしまわない
- 本人ができる部分は、時間がかかっても自分でしてもらう
- 離床できる人には、適切な範囲でベッドから離れる機会をつくる
- 食事・排泄・更衣・移乗といった日常生活を、身体活動につなげて考える
- 長時間同じ姿勢にならんよう、体位を整える
- 会話や関わりの機会を減らさない
ただし、これらはすべて医師やリハビリ職などの方針を踏まえたうえで、本人の状態を確認しながら行うものになる。
「できないから介助する」のは当たり前や。問題は、できることまで先回りして奪ってしまうことの方にある。
動かせば動かすほど良い、とは言えん
ここまで読んで、「ほな、とにかく動かしたらええんやな」と受け取られたら、それは違う。
⚠ 過度な活動が害になることもある
リハビリテーションでは、使わなすぎることによる「廃用」だけやなく、使いすぎる「過用」や、間違った使い方による「誤用」にも注意が必要とされとる。廃用を防ぎたいからといって、ただ強く動かせばええわけやない。
医師から安静の指示が出とる場合、体調が優れん場合、転倒のリスクが高い場合は、活動を控える判断が必要になる。ここを飛ばして動かすのは、予防やなく事故につながる。
どこまで動いてええのか、どの動きは避けた方がええのか。これを決めるのは介護職やない。医師や看護師、リハビリ職の判断が要る領域や。
介護職の立場は、その方針の範囲内で、生活の中の機会を活かす側になる。ここを踏み外さんことが、結局は利用者さんを守ることになると思っとる。
「昨日までできとったこと」を、次の人へつなぐ
廃用症候群には、これを調べたら分かるという決まった検査があるわけやない。健康長寿ネットにも、医師だけやなく看護師やリハビリの人、家族が見つけることもある、と書かれとる。
つまり、気づけるかどうかは、日常を見とる人にかかっとるということになる。
介護職は、食事・排泄・入浴・更衣など、利用者さんの日々の生活場面に関わる機会が多い。この位置におる人間が最初に気づける可能性は、けっこう高い。
せやから、明日からできることを一つだけ挙げるとしたら、これになる。
「昨日まではできとったのに、今日はちょっと違う」と感じたことを、自分の中で終わらせんと、記録に残して次の職員や看護師、リハビリ職へ伝えること。手すりを持つ手の位置が変わった。立ち上がりに前より時間がかかった。それくらいの小さい話でええ。
こういう小さな変化でも、自分の中だけで終わらせず、次の職員や看護師、リハビリ職へ共有する。これも、日常生活を見とる介護職にできる大切な役割の一つやと思っとる。
よくある質問
Q. 入院したら、必ず廃用症候群になるんですか?
必ずなるわけではありません。ただ、入院や安静で動く機会が減る期間は、リスクが高くなる時期ではあります。病状や医師・リハビリ職などの方針を踏まえながら、可能な範囲で活動や生活動作を取り戻していくことが大切です。心配な場合は、入院先の医師や看護師、リハビリ職へ相談してみてください。
Q. 家族が自宅でできることはありますか?
本人ができる動作を介助者が先回りして奪わず、状態に応じて生活の中で身体を使う機会を保つことは、廃用を防ぐうえで大切な関わりの一つです。手伝った方が速い場面でも、できる部分は本人にしてもらう。座って過ごす時間をつくる。声をかけて関わる機会を減らさない。ただし、どこまで動いてよいかは本人の状態によって違うので、医師・看護師・リハビリ職などへ確認したうえで進めてください。
Q. 一度車椅子になったら、もう歩けるようには戻らないんですか?
高齢者の場合、一度低下した機能を元の状態まで戻すのは難しくなるとされています。ただ「もう終わり」という話ではなく、今ある機能をこれ以上落とさないための関わりには意味があります。回復の見込みについては本人の状態次第なので、ワイの立場では断言できません。医師やリハビリ職へ相談してみてください。
まとめ
廃用症候群は、病気やけがそのものやなく、その後の「動かん時間」から起こる。高齢者では短い期間の安静でも機能が落ちることがあり、気づかないうちに進んでいる場合もある。せやから治すことより、防ぐことの方が重要になる。
予防いうても、介護職が独断でリハビリをやるという話やない。専門職の方針の範囲内で、食事・排泄・更衣・移乗・離床といった毎日の生活そのものを、身体を使う機会として考えること。それが介護職にできることやと思っとる。
できないことを介助するのは当たり前や。ワイが気をつけたいのは、その手前にある「できることまで奪ってしまう」ほうやな。忙しい日ほど、そこが一番先に削られていく。
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