「この人、前は自分で歩いとったよな」

介護の現場で働いとると、こう思う瞬間が何度もある。数ヶ月前までは手すりを持って自分でトイレへ行けとった人が、気づいたら車椅子中心の生活になっとる。立ち上がるときに、前は必要なかった介助が要るようになっとる。

その変化の裏側で起きとることが多いのが、廃用症候群や。

※画像はイメージです(AI生成)

廃用症候群とは、動かんことで動けんようになること

廃用症候群とは、過度に安静にすることや、活動量が落ちた状態が続くことで、身体に生じるさまざまな状態のことを指す。

ここで押さえておきたいんは、これが病気やけがそのものによる症状やなくて、その後の「動かん時間」によって起こる二次的な問題やということや。

骨折して入院した。肺炎で数週間ベッドの上やった。転倒が怖くて外出せんようになった。きっかけは人それぞれやけど、共通しとるのは「身体を使う機会が減った状態が続いた」という一点になる。

災害の避難所生活などをきっかけに起こる場合は、生活不活発病という呼び方をされることもある。

なぜ高齢者では特に注意がいるのか

理由は大きく三つある。

一つ目は、短い期間の安静でも機能が落ちることがあること。特に高齢者では、活動量が落ちた状態が続くことで、筋力や筋肉量の低下が進みやすいため注意が必要になる。

どのくらいで落ちるのか

公益財団法人長寿科学振興財団の健康長寿ネットでは、絶対安静で筋肉の伸び縮みが行われない状態では1週間で1割から1割5分ほどの筋力低下が起こるとされ、高齢者では2週間の床上安静でも下肢の筋肉が2割ほど萎縮するとも言われている、と紹介されとる。

出典:健康長寿ネット(公益財団法人長寿科学振興財団)

二つ目は、気づきにくいこと。健康長寿ネットでも、高齢者では知らんうちに進んで、気づいた時には起き上がれん、歩けん、という状況になっとることが少なくないと書かれとる。ある日いきなり歩けんようになるわけやないから、途中の変化を誰かが拾わなあかん。

三つ目は、戻りにくいこと。一度そうなってしまうと、元の状態まで改善させるのは難しくなる。せやから廃用症候群は、治すことより予防することの方が重要やとされとる。

そしてこの三つが、悪循環を作る。動かんから体力が落ちる。体力が落ちるから、動くとすぐしんどくなる。しんどいからまた休む。休むからまた落ちる。この輪が回り出すと、止めるのがどんどん難しくなっていく。

現場で見てきた「じわじわ来る」変化

介護の現場で見る変化は、たいてい地味や。

― ワイの現場から ―

以前は歩いとった人が車椅子中心になる。自分で立てとった人が、立ち上がりに介助が要るようになる。着替えのときに腕が上がりにくくなっとる。ベッドで過ごす時間が長くなって、そのぶんまた動かんようになる。

身体のことだけやない。食事や排泄など日常生活そのものへの意欲が低下することもある。

状態が低下していく利用者さんへの関わりについては、ターミナルケアで介護職が見てきた最期の観察と報告の記事でも、現場での観察や報告の重要性を書いています。

一つひとつは小さい。せやから「最近ちょっと落ちてきたかな」くらいで流れてしまいやすい。気づいたときには、だいぶ進んどる。

それと、廃用症候群で起こりうることは、筋力低下だけやない。ここは知っといた方がええと思う。

廃用症候群で起こりうるとされる症状の種類

  • 筋萎縮(筋肉がやせ衰える)
  • 関節拘縮(関節の動きが悪くなる)
  • 骨萎縮(骨がもろくなる)
  • 心機能の低下、起立性低血圧
  • 誤嚥性肺炎、血栓塞栓症
  • 褥瘡(床ずれ)
  • うつ状態、せん妄、見当識障害
  • 逆流性食道炎、尿路感染症など

出典:健康長寿ネット(公益財団法人長寿科学振興財団)

身体の動きの話だけやなく、精神面にも及ぶ。最近ぼんやりしているように見える、といった変化も、別の角度から考えるきっかけになる。

介護職がリハビリ職の代わりをするわけやない

ここは先に、はっきり書いておきたい。

廃用症候群の予防が大事やというのは、介護職が自分の判断でリハビリをやったらええ、という話ではまったくない。

ワイは以前の勤務先で、リハビリ部門を1週間研修したことがある。

― ワイの現場から ―

あの研修の目的は、介護職が理学療法士や作業療法士の代わりになることやなかった。研修では、リハビリ職が利用者さんをどのように見て、何を目的に身体を動かしているのかを知る機会になった。

この研修を通して分かったのは、専門職の視点を借りることはできても、専門職の判断を代われるわけやない、ということやった。介護職が独断で訓練メニューを組むような話とは、まったく別の次元にある。

「できないから介助する」やなく「できることまで奪わない」

ほな介護職に何ができるんか。ワイはここが一番大事やと思っとる。

特別な訓練の時間を作ることやなくて、毎日の生活そのものを、身体を使う機会として考えるということや。

食事、排泄、更衣、移乗、離床。この一つひとつが、全部身体を動かす場面になっとる。リハビリの時間だけが身体を使う時間やない。むしろ、生活の中で使っとる時間の方が圧倒的に長い。

ところが現場が忙しいと、こうなりやすい。

本人が自分でボタンを留められるのに、待っとる時間がないから全部やってしまう。自分で立てるのに、そのほうが速いから抱えて移してしまう。一回一回は数十秒の差やけど、それが毎日、何ヶ月も積み重なる。

介護職ができる関わりを、具体的に挙げるとこうなる。

生活の中で身体を使う機会を奪わない関わり

  • できる動作まで介助者が全部してしまわない
  • 本人ができる部分は、時間がかかっても自分でしてもらう
  • 離床できる人には、適切な範囲でベッドから離れる機会をつくる
  • 食事・排泄・更衣・移乗といった日常生活を、身体活動につなげて考える
  • 長時間同じ姿勢にならんよう、体位を整える
  • 会話や関わりの機会を減らさない

ただし、これらはすべて医師やリハビリ職などの方針を踏まえたうえで、本人の状態を確認しながら行うものになる。

「できないから介助する」のは当たり前や。問題は、できることまで先回りして奪ってしまうことの方にある。

動かせば動かすほど良い、とは言えん

ここまで読んで、「ほな、とにかく動かしたらええんやな」と受け取られたら、それは違う。

⚠ 過度な活動が害になることもある

リハビリテーションでは、使わなすぎることによる「廃用」だけやなく、使いすぎる「過用」や、間違った使い方による「誤用」にも注意が必要とされとる。廃用を防ぎたいからといって、ただ強く動かせばええわけやない。

医師から安静の指示が出とる場合、体調が優れん場合、転倒のリスクが高い場合は、活動を控える判断が必要になる。ここを飛ばして動かすのは、予防やなく事故につながる。

どこまで動いてええのか、どの動きは避けた方がええのか。これを決めるのは介護職やない。医師や看護師、リハビリ職の判断が要る領域や。

介護職の立場は、その方針の範囲内で、生活の中の機会を活かす側になる。ここを踏み外さんことが、結局は利用者さんを守ることになると思っとる。

「昨日までできとったこと」を、次の人へつなぐ

廃用症候群には、これを調べたら分かるという決まった検査があるわけやない。健康長寿ネットにも、医師だけやなく看護師やリハビリの人、家族が見つけることもある、と書かれとる。

つまり、気づけるかどうかは、日常を見とる人にかかっとるということになる。

介護職は、食事・排泄・入浴・更衣など、利用者さんの日々の生活場面に関わる機会が多い。この位置におる人間が最初に気づける可能性は、けっこう高い。

せやから、明日からできることを一つだけ挙げるとしたら、これになる。

「昨日まではできとったのに、今日はちょっと違う」と感じたことを、自分の中で終わらせんと、記録に残して次の職員や看護師、リハビリ職へ伝えること。手すりを持つ手の位置が変わった。立ち上がりに前より時間がかかった。それくらいの小さい話でええ。

こういう小さな変化でも、自分の中だけで終わらせず、次の職員や看護師、リハビリ職へ共有する。これも、日常生活を見とる介護職にできる大切な役割の一つやと思っとる。