夜勤介護マンの日記
介護施設の「監査」とは?運営指導との違いと、何を確認されるのかを分かりやすく解説
行政の担当者が施設へ来る=監査、ではありません。制度上の違いと、現場の記録との関係を整理します。
介護施設で働いていると、こんな会話を耳にすることがあります。
「来月、監査が入るらしいで」
「監査の準備で、書類そろえなアカンって」
行政の担当者が施設へ来る予定があると、職員同士ではまとめて「監査」と呼ばれることが少なくありません。介護の現場では、それでだいたい話が通じてしまいます。
ただ、制度の上では、行政が施設へ来ることのすべてが監査というわけではありません。
普段から計画的に行われている「運営指導」と、違反や不正が疑われる場合などに事実関係を確かめるために行われる「監査」は、目的も、実施される契機も、結果として想定される対応も、同じではないのです。
この違いを知らないまま「監査」という言葉だけを聞くと、必要以上に身構えてしまいます。逆に、区別がつかないまま「どうせいつものやつやろ」と流してしまうこともあります。どちらも、あまり良い状態とは言えません。
この記事では、厚生労働省の指針やマニュアル、介護保険法をもとに、介護保険法上の監査とは何か、運営指導とどう違うのか、どのような場合に行われ、何を確認されるのか、そして監査後にどのような対応があり得るのかを整理します。
最後には、現場の介護職が日々つけている記録とどうつながるのかまで書きます。制度の話で終わらせるつもりはありません。
本記事は2026年8月28日時点で確認した厚生労働省の資料、介護保険法をもとに作成しています。制度の内容や自治体ごとの運用は変更される場合があります。
また、この記事は制度の一般的な解説であり、個別の事案について判断するものではありません。実際の対応については、勤務先の管理者や指定権者である自治体へご確認ください。
この記事の結論
行政の担当者が施設へ来ることが、すべて監査とは限りません。介護保険法上の監査は、基準違反や不正請求、高齢者虐待などが認められる場合、またはその疑いがある場合に、事実関係を的確に把握して公正かつ適切な措置をとることを主眼として行われるものです。
この記事で分かること
- 介護保険法上の監査とは何か
- 運営指導と監査の違い(比較表つき)
- どのような場合に監査が行われるのか
- 監査で確認される内容
- 監査後に考えられる行政上・経済上の措置
- 介護職のケア記録がなぜ関係するのか
- 介護職が日頃から意識したいこと
まず結論|行政の人が施設へ来ても、すべて「監査」ではない
最初に、この記事でいちばん伝えたい部分を書きます。
介護保険法に基づいて行政が介護保険施設等に関わる形には、大きく分けて「指導」と「監査」があります。そして指導は、さらに「集団指導」と「運営指導」に分かれます。
厚生労働省の「介護保険施設等指導指針」では、指導は介護保険施設等への支援を基本とするものと位置づけられています。目的は、サービスの質の確保と保険給付の適正化です。事業所を罰するための手続ではありません。
これに対して監査は、別添の「介護保険施設等監査指針」に定められており、人員・設備・運営に関する基準に従っていない場合や、介護報酬の不正請求、不正の手段による指定、高齢者虐待などが認められる場合、またはその疑いがあると認められる場合に、事実関係を的確に把握して公正かつ適切な措置をとることを主眼としています。
通常の運営指導が来ることは、不正の発覚を意味しない
ここは誤解されやすいところです。
運営指導は、指導対象を一定の方針に基づいて計画的に選定して行われます。「あの施設は怪しいから行こう」という選び方が基本ではありません。したがって、運営指導の通知が届いたこと自体は、何か不正が見つかったという意味ではないということになります。
職員に不安が広がりやすいのは、この点が共有されていないときです。管理者から「来月、行政が来る」とだけ伝わると、現場は「何かあったのか」と受け取ってしまいます。
この記事で扱う「監査」の範囲
この記事の主対象は、介護保険法に基づく監査です。
タイトルでは分かりやすく「介護施設の監査」としていますが、厳密には介護老人福祉施設や介護老人保健施設といった施設だけが対象ではありません。監査指針には、指定居宅サービス事業者、指定地域密着型サービス事業者、指定居宅介護支援事業者、指定介護予防サービス事業者など、介護保険法上のさまざまな事業者が対象として挙げられています。訪問系や通所系の事業所も含まれるということです。
そのうえで、「監査」という言葉には、これとは別の制度もあります。
- 老人福祉法などに基づく施設の指導監査
- 社会福祉法人に対する指導監査
- 法人が内部で行う監査、会計監査
- 自治体が独自の実施要綱で「指導監査」という表現を用いている場合
これらは介護保険法上の監査とは根拠となる法令が異なります。同じ施設に、介護保険法に基づく確認と老人福祉法などに基づく確認が同じ日、あるいは連続した日程で行われることもありますが、それは効率化のための日程調整であって、法的な位置づけまで同じというわけではありません。
「実地指導」という呼び方はどうなったのか
もう一つ、言葉の話をしておきます。
以前は「実地指導」という名称が広く使われていました。現在の指導指針は令和4年3月31日付けの通知として出されたもので(最終改正は令和6年3月26日)、そこでは「運営指導」という名称が使われています。この通知の発出により、それ以前の実地指導に関する運用指針は廃止されました。
現場では今も「実地指導」と呼ぶ人がいますが、指しているものは基本的に現在の運営指導です。そして、実地指導と監査は別物です。ここを同じ意味で使ってしまうと、話が噛み合わなくなります。
介護保険法上の「監査」とは何か
次に、監査そのものの制度的な位置づけを見ていきます。
目的は、違反や不正等の事実関係を確認すること
監査指針の「監査方針」には、監査を行う場面として次のような状況が挙げられています。
- 人員、施設および設備ならびに運営に関する基準に従っていないと認められる場合、またはその疑いがあると認められる場合
- 介護報酬の請求について不正を行っていると認められる場合、またはその疑いがあると認められる場合
- 不正の手段により指定等を受けていると認められる場合、またはその疑いがあると認められる場合
- 利用者等について、高齢者虐待防止法に基づき市町村が虐待の認定を行った場合、または高齢者虐待等により利用者等の生命もしくは身体の安全に危害を及ぼしている疑いがあると認められる場合
前の三つはまとめて「指定基準違反等」、最後は「人格尊重義務違反」と呼ばれます。
ここで注目したいのが、すべての類型に「またはその疑いがあると認められる場合」が入っていることです。つまり、監査は不正が確定したあとに行う手続とは限りません。疑いの段階で、それが事実かどうかを確かめるために行われることもあります。
監査マニュアルにも、不正等に該当するかの判断は監査による立入検査等を実施して事実を確認することではじめて可能になる、という趣旨の説明があります。監査が始まったこと自体は、不正があったことを意味しません。この点は、後の章でも繰り返し出てきます。
監査では報告、書類提出、質問、立入検査等が行われる
監査で行われることは、監査指針に列挙されています。都道府県または市町村が、対象となる介護保険施設等に対して、報告もしくは帳簿書類の提出・提示を命じ、出頭を求め、職員に関係者へ質問させ、あるいは事業所等へ立ち入って設備や帳簿書類その他の物件を検査する、という内容です。
この「立入検査」が、運営指導との大きな違いになります。運営指導は介護保険法第23条および第24条に基づいて行われますが、監査マニュアルによれば、これらの規定には立入検査の権限が規定されていません。関係者への質問についても同様です。
言いかえると、確認できることの範囲そのものが違うということになります。
根拠となる条文はサービス種別によって異なる
監査の根拠条文は一つではありません。
監査マニュアルでは、例として居宅サービスの場合に介護保険法第76条第1項が挙げられています。ただし、これは居宅サービスの例であって、地域密着型サービス、居宅介護支援、施設サービス、介護予防サービスなど、サービスの種類ごとに根拠となる条文が異なります。監査指針の冒頭には、対象となる条文が二十数か所にわたって列挙されています。
「介護保険法第76条に基づく監査」という説明を目にすることがありますが、それがすべてのサービスに当てはまるわけではない、ということです。
それから、担当する職員のことを「監査官」と呼ぶ表現も見かけますが、指針では「監査担当者」と記載されています。捜査機関の職員ではなく、都道府県や市町村の職員です。監査を警察の捜索と同じものとして考えるのは、性質が違います。
運営指導とは何か
比較に入る前に、運営指導の側も整理しておきます。
介護保険施設等への支援を基本とする指導
指導指針では、指導の目的が「介護保険施設等の支援を基本とし」たうえで、サービスの質の確保および保険給付の適正化を図ることとされています。方針としては、基準等に定めるサービスの取扱いや介護報酬の請求等に関する事項を周知徹底させることが挙げられています。
留意点として、高圧的な言動は控えること、改善が必要な事項については共通認識が得られるよう留意すること、担当職員の主観に基づく指導を行わないことなども明記されています。
なお、指導には運営指導のほかに「集団指導」もあります。こちらは指定や許可の権限を持つ介護保険施設等を一定の場所に集めて、年1回以上、講習等の方法で行うものです。オンラインでの動画配信等による実施も認められています。制度改正の内容や過去の指導事例などが扱われます。
運営指導で確認される3つの分野
運営指導は、次の三つの内容について、原則として実地で行われます。
- 介護サービスの実施状況指導……個別サービスの質に関する指導。施設・設備や、利用者等に対するサービスの提供状況を含みます
- 最低基準等運営体制指導……基準等に規定する運営体制に関する指導
- 報酬請求指導……加算等の介護報酬請求の適正実施に関する指導
この三つは、効率的な実施の観点から分割して行うことも差し支えないとされています。
そして、実施にあたっては介護保険施設等による自己点検が励行され、上の一つ目と二つ目については、標準的な「確認項目」と「確認文書」に基づいて実施されます。この確認項目・確認文書はサービス種別ごとに別に定められており、厚生労働省の運営指導マニュアルのページに「別添 確認文書・確認項目一覧」として公開されています。
重要なのは、確認項目以外の項目は特段の事情がない限り確認せず、確認文書以外の文書は原則として求めないとされている点です。準備する側の負担を減らすための決まりでもあります。
運営指導の通知と実施方法
運営指導の実施通知については、原則と例外があります。
運営指導の事前通知
原則……都道府県知事および市町村長は、指導対象となる施設等を決定したときは、原則として運営指導実施日の1月前までに文書で通知します。通知される事項は、根拠規定および目的、日時および場所、指導担当者、施設等の出席者、準備すべき書類等、当日の進め方や流れです。
例外……指導対象となる施設等において高齢者虐待が疑われる等の理由により、あらかじめ通知したのでは日常におけるサービスの提供状況を確認できないと認められる場合は、指導開始時に同じ事項が文書で通知されます。
実施頻度については、原則として指定または許可の有効期間内に少なくとも1回以上とされています。加えて、居宅サービスのうち居住系サービス、地域密着型サービスのうち居住系または施設系サービス、施設サービスについては、3年に1回以上の頻度で行うことが望ましいとされています。
方法は、関係者から関係書類等をもとに説明を求める面談方式です。ただし、施設・設備や利用者等のサービス利用状況以外で、実地でなくても確認できる内容については、情報セキュリティの確保を前提としてオンライン等を活用できるとされています。この対象は最低基準等運営体制指導と報酬請求指導に限られます。
準備する文書についても細かい定めがあります。原則として前年度から直近の実績に係るものとし、提出を求める資料や書類の写しは1部。自治体がすでに保有している文書は再提出を求めない。電磁的記録で管理されている書面はディスプレイ上で内容を確認し、印刷した書類の準備や提出は求めない、といった内容です。
それから、利用者等の記録の確認範囲についても定めがあります。サービスの質を確認するために記録等を確認する場合、特に必要と判断する場合を除き、対象は原則として3名以内とされています。居宅介護支援事業所については、原則として介護支援専門員1人あたり1名から2名です。
「全利用者の記録を必ず確認される」というものではない、ということになります。
運営指導と監査の違いを一覧表で比較
ここまでの内容を、表にまとめます。
| 項目 | 運営指導 | 監査 |
|---|---|---|
| 主な目的 | 施設等への支援を基本とし、サービスの質の確保と保険給付の適正化を図る | 違反や不正等の事実関係を的確に把握し、公正かつ適切な措置をとる |
| 実施の契機 | 計画的に実施。実施頻度や個別事由を勘案して選定 | 基準違反、不正請求、不正の手段による指定、高齢者虐待等、またはその疑いを確認する必要があると認める場合 |
| 対象の選び方 | 原則毎年度、計画的に実施できるよう自治体が選定 | 通報・苦情、虐待の情報、国保連や保険者からの情報、運営指導で得た情報などを踏まえて判断 |
| 違反や不正の疑いとの関係 | 疑いを前提としない。通知が来たこと自体は不正の発覚を意味しない | 疑いの段階でも行われる。監査の開始は不正の確定を意味しない |
| 確認方法 | 関係書類等をもとに説明を求める面談方式。原則実地。一部はオンライン等の活用が可能 | 報告・帳簿書類の提出提示の命令、出頭の求め、関係者への質問、立入検査等 |
| 事前通知 | 原則として実施日の1月前までに文書で通知。ただし高齢者虐待が疑われる等で日常の提供状況を確認できないと認められる場合は指導開始時に通知 | 監査開始時に文書で通知。事前に連絡する場合もあるが、事前通知が必須とはされていない |
| 確認する文書 | サービス種別ごとの標準的な確認文書に基づく。それ以外の文書は原則求めない | 疑われている事実を確認するために必要な書類等。固定の一覧は定められていない |
| 職員への質問 | 関係者から関係書類等をもとに説明を求める | 職員に関係者へ質問させることができる。個別の聞き取りが行われる場合がある |
| 相互の移行 | 実施中に一定の状況を確認した場合、運営指導を中止して監査へ移行する | 運営指導から移行した場合は、口頭で監査を実施する旨が通告される |
| 結果として考えられる対応 | 改善を要する事項の文書通知と報告の求め。軽微な誤りは過誤による調整 | 不正が認められない場合もある。事実に応じて行政指導、勧告、命令、指定の効力停止、指定取消等が検討される |
厚生労働省「介護保険施設等指導指針」「介護保険施設等監査指針」「介護保険施設等に対する監査マニュアル」をもとに整理しています。自治体ごとの実施要綱によって細部の運用が異なる場合があります。
表にすると整理されて見えますが、実際の運用はもう少し幅があります。特に事前通知については、「運営指導は1か月前、監査は抜き打ち」と単純に覚えてしまうと、例外を見落とします。
運営指導にも無通告で始まる場合の定めがありますし、監査についても監査マニュアルには、事前に連絡した場合には施設長等が在席している状態で実施できるというメリットがある一方、証拠隠滅のリスクがある、という趣旨の記載があります。どちらか一方に固定されているわけではありません。
どのような場合に監査が行われるのか
次に、監査が行われる場面を具体的に見ていきます。
監査の判断材料となる「要確認情報」
監査指針の「監査対象となる介護保険施設等の選定基準」には、次の情報が「要確認情報」として挙げられています。
- 通報・苦情・相談等に基づく情報
- 市町村が高齢者虐待防止法に基づき虐待を認定した場合、または高齢者虐待等により利用者等の生命もしくは身体の安全に危害を及ぼしている疑いがあると認められる情報
- 国民健康保険団体連合会(国保連)、地域包括支援センターへ寄せられる苦情
- 国保連・保険者からの通報情報
- 介護給付費適正化システムの分析から特異傾向を示す介護保険施設等
- 報告の拒否等に関する情報
これに加えて、運営指導を行った自治体が施設等において認めた指定基準違反等および人格尊重義務違反(疑いがある場合を含む)も、判断材料になります。
ここで押さえておきたいのは、これらは「監査の必要性を判断するための情報」であって、「違反が確定した事実」ではないということです。
監査マニュアルには、通報内容の事実確認にあたっては、それが虚偽または過失によるものでないか精査を行うという趣旨の記載があります。また、監査開始前に通報者から受け取った証拠類のみに基づいて軽々に不正等を認定することはできない、とも明記されています。
苦情や通報が寄せられただけで、その施設に違反があると決まるわけではありません。何が事実なのかを確かめるために監査が行われる、という順番です。
なお、通報者の保護についても記載があります。事業者に通報者を特定されることがないように調査を行うなど、通報者の立場の保護に配慮することが必要とされています。
運営指導の途中で監査へ変わる場合
もう一つ、覚えておきたい仕組みがあります。
指導指針の「監査への変更」には、運営指導を実施中に次の状況を確認した場合、運営指導を中止し、直ちに監査を行って事実関係の調査および確認を行うと定められています。
運営指導から監査へ変更される場合
- 人員、施設および設備ならびに運営に関する基準に従っていない状況が著しいと認められる場合、またはその疑いがあると認められる場合
- 介護報酬請求について、不正を行っていると認められる場合、またはその疑いがあると認められる場合
- 不正の手段による指定等を受けていると認められる場合、またはその疑いがあると認められる場合
- 高齢者虐待等により、利用者等の生命または身体の安全に危害を及ぼしていると認められる場合、またはその疑いがあると認められる場合
この場合、監査指針では、口頭により監査を実施する旨が通告されるとされています。監査マニュアルでは、その後あらためて文書で実施通知を作成し、事業所に通知することが望ましいとも記載されています。
つまり、その日は運営指導として始まったとしても、途中から監査に切り替わることがあるということです。「今日は運営指導だから」と考えていると、状況が変わることがあります。
監査はどのように進むのか
ここでは、監査の基本的な流れを、制度上確認できる範囲で説明します。実際の進め方は、自治体、サービス種別、疑われている問題、調査の範囲によって異なりますので、常に同じ順序をたどるものではありません。
監査開始前に情報と確認事項が整理される
監査マニュアルには、監査を実施する前の準備として、運営指導や通報等から得た事前情報をもとに、立入検査当日の手順、提出を求める書類、聞き取りが必要な職員、聞き取り内容をあらかじめ想定しておくことが大切だ、という趣旨の記載があります。
何を確かめるための監査なのかが、あらかじめ整理されているということです。
監査開始時の実施通知
監査の実施が決まった場合、事業所に対して監査開始時に文書で実施通知が行われます。通知される事項は次のとおりです。
- 監査の根拠規定
- 監査の日時および場所
- 監査担当者
- 監査対象となる施設等の出席者
- 必要な書類等
- 虚偽の報告または答弁、検査忌避等に関する罰則規定
監査マニュアルでは、この通知は事前に行う必要はなく監査当日でも構わないとされています。また、監査を実施する理由については、証拠保全や通報者保護の観点からも伝える必要はないとされています。
立入検査、書類確認、関係者への質問
監査では、事業所等への立入検査が認められています。監査マニュアルによれば、立入検査は、監査を行う端緒以外にも新たな不正もしくは不正と疑われる事項がないか、また関係書類等の事実が隠ぺい・捏造されていないかを考慮しながら行うことが適切とされています。
証拠保全の観点から、物的証拠となりうる関係書類は可能な限り監査当日に取得する必要があるとされ、行政側が現地で原本の写しを取る、あるいは事業所から一時的に関係書類を預かるといった方法が挙げられています。
関係者からの聞き取りについては、一人一人個別に事情を聞き取るとされています。聞き取り調書などに記載し、内容に齟齬がないよう関係者に確認を行い、相違ない旨について署名を取っておくことが有用とも書かれています。対象者の同意が得られる場合には、聞き取り内容を録音することも可能とされています。
なお、立入検査だけでは確認できなかった事実について補完調査が必要になった場合には、出頭を求めることが望ましいとされています。
事業所の外の情報と照合されることもある
確認の対象は、事業所の中にある書類だけとは限りません。
監査マニュアルには、事実認定に際して「何を立証したいのか」を明確にしたうえで、必要に応じて利用者、国保連、医療機関などへ質問することも可能である、という趣旨の記載があります。例として、利用者の入院期間などが挙げられています。
事業所内の記録と、外部にある情報とが突き合わされる場合がある、ということです。
監査後に事実と対応が検討される
監査が終わると、確認できた事実をもとに、どのような対応をとるかが検討されます。ここについては、後の章であらためて整理します。
なお、事業者が監査を忌避した場合には、指定取消や指定の効力の一部または全部停止の対象となり、加えて30万円以下の罰金が科されると監査マニュアルに記載されています。聞き取りを拒めば済む、という性質のものではありません。
監査では何を確認されるのか
この記事でいちばん検索されやすい部分だと思います。
最初に大事な前提を書いておきます。監査には、すべてのサービスに共通する固定のチェックリストがあるわけではありません。運営指導のように標準的な確認項目・確認文書が定められている枠組みとは、そこが違います。
監査で確認されるのは、疑われている事実を確かめるために必要な資料や事実です。何が疑われているかによって、見られるものは変わります。
そのうえで、監査の対象となる違反類型ごとに、一般的にどのようなものが関係し得るのかを整理します。以下はあくまで一般的な例であり、必ず確認される固定の書類という意味ではありません。
人員基準に関する確認
人員基準違反が疑われる場合、実際に基準を満たす職員が配置されていたかが問題になります。関係し得るものとしては、勤務表、出勤記録、雇用関係が分かる資料、資格証、職種ごとの配置状況、常勤・非常勤・専従・兼務といった扱い、そして実際の勤務実態などが挙げられます。
ここで押さえておきたいのは、書類上の配置と実際の勤務実態が一致しているかが問われる、という点です。勤務表に名前があることと、その人が実際にその時間に勤務していたことは、別の事実です。
設備基準に関する確認
設備については、条例等で定める基準を満たしているかが確認の対象になります。監査では立入検査が認められているため、書類だけでなく設備そのものを検査することができます。
運営基準と実際のケアに関する確認
運営基準は範囲が広く、サービス種別によって求められる内容も異なります。関係し得るものとしては、重要事項説明や契約に関する資料、個別サービス計画、介護記録やサービス提供記録、申し送りや連絡記録、事故報告、苦情対応、身体拘束等に関する記録、虐待防止に関する体制や記録、研修や委員会に関する記録、そして実際に提供されたケアの内容などがあります。
介護職がいちばん関わるのは、この領域です。
介護報酬請求に関する確認
不正請求が疑われる場合には、請求した基本報酬、加算や減算の算定要件、サービス提供の実績、計画、記録、勤務状況、国保連への請求内容、利用者の入院や外泊といった利用状況などが関係します。
要するに、請求した内容と、実際に提供したサービスが一致しているかが問われます。
指定申請時の内容に関する確認
不正の手段による指定が疑われる場合には、指定申請時に届け出た人員、資格、設備、運営体制と、当時または現在の実態が一致しているかが確認されます。虚偽の資料が用いられていなかったかも含まれます。
高齢者虐待や人格尊重義務に関する確認
監査マニュアルによれば、介護保険法における利用者の人格尊重の義務は、実際に行為をした従業者ではなく、施設の開設者・事業者に課されているとされています。したがって、虐待の事案(疑いを含む)があれば、介護保険法に基づく監査によって事実関係の確認が行われます。
高齢者虐待の担当部局と指定権者が同じ自治体である場合は部署間の連携が、異なる場合は自治体間の情報共有が必要とされています。
虐待を個人の性格だけの問題にせず、人員や夜勤体制、相談できない職場の空気まで含めて考えた内容は、介護職員も人間や|夜勤ストレスと虐待が起きる現場の限界で整理しています。
共通しているのは「整合性」の確認
類型ごとに見てきましたが、通して共通しているのは、単に書類があるかどうかではないということです。
監査で問われる整合性
- 複数の書類同士が一致しているか
- 職員の説明と記録が一致しているか
- 記録と実際のサービス提供が一致しているか
- サービス提供と介護報酬請求が一致しているか
書類がそろっていても、勤務表と出勤記録が食い違っていれば、そこが問われます。記録があっても、職員の説明と内容が違えば、どちらが事実なのかを確かめる必要が出てきます。
この「突き合わせ」という視点が、次の章につながります。
なぜ「実際のケア」と「記録」の一致が重要なのか
ここからは、制度の話を現場に引き寄せます。
四つがつながっているという構造
介護サービスは、大まかに言えば次のような流れで成り立っています。
サービスの流れ
ケアプランや個別サービス計画
↓
実際に提供したケア
↓
介護記録やサービス提供記録
↓
介護報酬請求
計画があって、それに沿ってケアを行い、行ったことを記録に残し、提供した内容に応じて報酬を請求する。この四つがつながっています。
この四つが大きく食い違っていると、サービスの質や請求の適正性を確認する際に問題となり得ます。計画にないケアが行われていた、記録にあるケアが実際には行われていなかった、記録と請求の内容が合わない。どれも、確認が必要な状態です。
介護記録は監査のためだけの書類ではない
ただ、ここで「監査で見られるから記録を書く」という理解になってしまうと、順番が逆になります。
介護記録には、もともと日常的な役割があります。
- 利用者さんの状態変化をチームで共有する
- 次の勤務者へ必要な情報をつなぐ
- 事故や体調変化への対応を振り返る
- 計画どおりの支援が行われたかを確認する
- 実際のサービス提供を示す
夜勤に入っていると、前の勤務者の記録が頼りになる場面がよくあります。日中どうだったのか、食事はどれくらい摂れたのか、いつもと違うところはなかったのか。それが書かれているかどうかで、夜の判断の質が変わります。
記録の目的が行政の確認だけになってしまうと、こちらの機能が薄くなります。
記録へ残すことと、必要な相手へ情報が伝わることは同じではありません。記録と口頭報告の役割は、介護で「記録に書いたから大丈夫」は危険な理由で詳しく書いています。
記録の対象になり得る内容
介護職が日々書いている内容としては、たとえば次のようなものがあります。
- 排泄介助を行ったかどうか
- 食事や水分摂取の状況
- 移乗や移動の介助
- 体位変換や離床の状況
- 状態変化と、その報告
- 事故が発生した際の状況と対応
- 身体拘束等に該当し得る対応の記録
ただし、何をどこまで記録するかは、サービス種別、その方の計画、施設の記録様式によって変わります。ここに挙げたものが全事業所に共通する必須項目という意味ではありません。
事故報告書を書く時間も、現場の業務から切り離されているわけではありません。報告書を作成している最中に別の事故が起きた経験は、【介護現場】報告書を書いてる最中に、また事故が起きたに残しています。
記録の書き方で気をつけたいこと
制度の要求というより、記録として機能させるために押さえておきたい点を挙げます。
- 実際に確認した事実を書く
- 行っていないケアを、行ったことにしない
- 曖昧な定型文だけで済ませない
- 状態、行動、対応、報告先を区別して書く
- 誤記を訂正する場合は、施設の正式な訂正手順に従う
- 後から辻褄を合わせるために記録を作らない
- 不明な点は管理者や担当者へ確認する
コピーした定型文をそのまま貼り付けた記録は、書く側にとっては早く済みます。ただ、それだと次の勤務者が読んでも何も分かりません。記録としての役割を果たしていない状態です。
記録の不備と不正請求は、直結しない
ここは正確に押さえておきたいところです。
監査マニュアルには、サービス提供記録等が全部または一部存在しない、あるいは不備がある場合等は明確に運営基準に違反していると考えられる、と記載されています。記録の不備自体が問題にならない、という話ではありません。
そのうえで、不正請求と認定するにあたっては、関係者の証言や他の諸記録との整合性等を調査し、サービス提供が不可能であったことを確認できるか否か判断を行うことが必要とされています。記録がないという一点だけで自動的に不正請求と認定されるわけではない、ということです。
また、不正請求の認定について、故意が認められる場合に限られるわけではないという記載もあります。重大な過失が認められる場合には故意とほぼ同視され、不正と認定することを妨げられるべきではないとされています。
「記録がなくても大丈夫」でもなく、「記録が一つ抜けたら即アウト」でもない。事実関係を確認したうえで判断される、というのが正確なところです。
現場の介護職も監査と無関係ではない
監査は管理者や事務担当者だけの話ではありません。ただし、これは介護職を怖がらせたいという意味ではありません。
実情を知る職員が確認を受ける場合がある
すでに書いたとおり、監査では関係者への質問が認められており、聞き取りは一人一人個別に行うとされています。実際にサービスを提供している職員が、その内容について確認を受ける場合があるということです。
ただし、全職員が必ず聞き取りを受けるわけではありません。監査マニュアルでは、聞き取りが必要な職員をあらかじめ想定しておくことが挙げられています。何を確かめる監査なのかによって、対象は変わります。
分からないことを推測で答えない
聞き取りを受けた場合に大切なのは、確認できる事実の範囲で答えることです。
覚えていないことを、その場の雰囲気で埋めてしまうと、後から記録と食い違うことになります。監査マニュアルには、聞き取った内容に齟齬をきたさないよう関係者に確認を行うという記載がありますが、そもそも記憶にないことを推測で答えれば、確認のしようがありません。
記録と自分の記憶が違う場合も、その場で勝手に辻褄を合わせないことです。分からないものは分からないと伝えるほうが、結果として正確な事実確認につながります。
記録の書換えや隠蔽に加わらない
これは、はっきり書いておきます。
監査の前後に、記録を偽造したり、改ざんしたり、隠したりすることに加わってはいけません。
監査マニュアルには、虚偽報告や虚偽答弁の事実が認められた場合が処分程度の加重項目として挙げられています。また、問題を認識した後に隠ぺいを図るなど悪質な行為が認められたかどうかも、検討の視点として記載されています。取り繕った結果、事態が重くなる方向に働くということです。
それ以前の問題として、事実と違う記録は、次の勤務者を誤らせます。
個人で抱えず、正式な報告経路を使う
もう一つ。日頃から、事故、状態変化、ケアが実施できなかったこと、計画との違いなどを、正式な方法で報告しておくことです。
報告は短ければよいのではなく、次の判断に必要な情報が届くことが大切です。転倒時に「転倒しています」だけでは場所すら分からなかった場面は、介護現場で「転倒しています」とだけ報告されて困った話で書いています。
そして、職員個人では解決できない問題があります。人員配置がどうなっているか、加算の算定要件を満たしているか、請求内容が実態と合っているか。こうしたことは、一介護職が判断できる範囲を超えています。
疑問があるときは、管理者、責任者、法人の担当部署へ確認してください。施設に対する行政処分と、介護職員個人が処分を受けることは別の話ですし、施設運営全体の責任を現場の一職員が負うものでもありません。
監査後に考えられる行政上・経済上の措置
「監査が入ったら指定取消になる」という誤解が根強いところです。実際はどうなのかを整理します。
改善を要する場合の行政指導
監査マニュアルによれば、監査の結果、不正は認められないが運営基準等の適合性が不十分である場合には、行政指導によって是正を図ることになります。内容としては、口頭での注意・助言指導のほか、改善報告書の提出を求めるなど、さまざまなものが想定されるとされています。
つまり、監査が行われても、不正が認められない場合があります。監査指針にも、行政上の措置に該当しない改善を要すると認められた事項については、その旨を通知して期限を定めて報告を求める、という趣旨の記載があります。
勧告とは何か
勧告は、期限を定めて、文書により基準の遵守等の措置をとるべきことを求めるものです。監査マニュアルでは「強い類型の行政指導」と説明されています。期限内に従わなかったときは、その旨を公表することができるとされていますが、公表を行うことは必須ではありません。
ここで、間違えやすい点があります。
勧告の対象となる違反は限られている
監査マニュアルによれば、勧告を行うことができるのは、介護保険法第70条第9項または第11項等に従わない場合と、人員基準違反、運営基準違反、事業を休廃止する際の便宜提供の義務に違反した場合に限られます。
人格尊重義務違反や不正請求については、勧告を行うことができません。これらは介護保険法上、行政処分の事由となるためです。
「まず勧告されて、従わなければ処分される」という説明を見かけることがありますが、それはすべての違反に当てはまるわけではありません。
勧告に従わない場合の命令
事業所が正当な理由なく勧告に係る措置をとらなかった場合には、期限を定めてその措置をとるべきことを命令することができます。命令をした場合には、その旨を公示しなければならないとされています。
勧告に従わなかった場合の「公表」は任意ですが、命令の場合の「公示」は必須です。ここは扱いが違います。
また、命令は不利益処分にあたるため、少なくとも事前に弁明の機会の付与が必要になります。
指定の一部効力停止と全部効力停止
指定基準違反等または人格尊重義務違反の内容等が法の定める各号のいずれかに該当する場合、指定権者は指定を取り消すか、期間を定めて指定の全部もしくは一部の効力を停止することができます。
効力の一部停止の具体的な内容としては、監査マニュアルに、新規利用者の受入停止や、介護報酬請求額の上限設定(期間を限定して報酬額を通常の70%とするなど)が想定されると記載されています。ただし、利用者保護の視点も考慮しつつ各自治体で検討すべき内容とされています。
効力の一部停止・全部停止のいずれについても、事前に弁明の機会を付与しなければならないとされています。
指定取消と、許可取消等
指定取消を行う際には、必ず事前に聴聞を行わなくてはなりません。弁明の機会の付与をもって聴聞に代えることはできない、と明記されています。
ここで一つ、区別しておきたいことがあります。指定を受けているサービス事業者と、許可を受けている施設とでは、措置の名称や根拠が異なります。
介護老人保健施設や介護医療院については、監査指針に、設備の使用制限等、管理者の変更命令、業務運営の勧告・命令等、許可の取消し等が定められています。「指定取消」と「許可取消」は、同じものではありません。
なお、指定を取り消したり、指定の全部もしくは一部の効力を停止したときは、事業所名や処分の内容および期間などが公示されます。
不正利得の返還と加算額
経済上の措置についても定めがあります。
監査指針では、取消処分等(命令を除く)を行った場合に、当該施設等が偽りその他不正の行為により介護報酬の支払いを受けているときは、その支払った額につき返還させるべき額を不正利得とし、関係する保険者に対して徴収を行うよう要請するとされています。
そして、この不正利得については、原則として、介護保険法第22条第3項の規定により返還させるべき額に100分の40を乗じて得た額を併せて徴収するとされています。
これと区別しておきたいのが「過誤調整」です。監査マニュアルによれば、過誤調整は、不正請求とは認定せず、事業者が誤りのあった審査決定済の請求を取り下げて改めて正しい請求を行う手続を指す通称です。事業所が保険者および国保連と自主的に調整を行うものであり、自治体が命ずるものではないとされています。
単なる誤りによる過誤調整と、不正請求に伴う返還は、まったく別のものです。
処分は固定された順番で決まるわけではない
最後に、この章でいちばん強調したい点です。
「行政指導→勧告→命令→効力停止→指定取消」という階段を、すべての事案が順番に上っていくわけではありません。
監査マニュアルには、処分程度の決定の考え方として、まず処分事由ごとに基本となる処分程度を定め、次に個別事情によって加重・軽減を行い、最後に他の要素を総合的に考慮して決定する、という三段階が示されています。
加重・軽減を検討する際の視点としては、利用者被害や法益を侵害している様態・程度、故意性の有無、常習性の有無、組織性の有無、悪質性の有無が挙げられています。最終段階では、地域におけるサービス提供・基盤整備の状況や、事業者の運営管理体制の適切性なども考慮されるとされています。
そして、基本となる処分の態様は事由によって異なります。人員基準違反と運営基準違反は勧告が基本とされている一方、人格尊重義務違反、不正請求、不正の手段による指定については、指定の全部効力停止が基本として位置づけられています。
なお、監査マニュアルには、人員基準違反・運営基準違反について、監査時以前の過去の一時期に基準違反があったが監査時には基準が満たされているという場合には行政処分等の事由には該当しない、という記載もあります。ただし、人員基準違反に起因する不正請求等は該当するとされています。
違反の種類、重大性、故意性、常習性、組織性、改善の状況によって、検討される措置は変わる。ここが正確な理解になります。
介護施設の監査でよくある誤解
ここまでの内容を、現場で混同しやすい形に置き換えて整理します。
行政の担当者が来たら、全部監査
制度上は、集団指導、運営指導、監査という異なる形があり、さらに老人福祉法などに基づく指導監査もあります。混同されやすいのは、現場では区別せずに「監査」と呼ぶ習慣があるためです。実務上はそれで通じますが、通知文書には根拠規定が書かれています。何に基づく訪問なのかは、そこで確認できます。
運営指導が来るのは、問題がある施設だけ
運営指導は計画的に実施され、施設等への支援を基本とするものです。誤解が生まれやすいのは、行政が来ること自体に緊張感があるためだと思います。通知が届いた段階で職員に「何かあったらしい」と伝わると、不安だけが広がります。何のための訪問なのかを共有するだけで、受け止め方は変わります。
監査が始まった時点で、不正は確定している
監査方針には、違反や不正について「その疑いがあると認められる場合」も含まれています。疑いを確かめるために行われることもあるということです。監査マニュアルにも、通報者から受け取った証拠類のみで軽々に不正等を認定することはできないと明記されています。監査の実施と、不正の認定は別の段階です。
監査は必ず抜き打ち
実施通知は監査開始時に行うのが基本で、事前に行う必要はないとされています。ただし、事前に連絡する場合もあり、そのメリットとリスクの両方がマニュアルに記載されています。「必ず抜き打ち」と決まっているわけではないのです。運営指導の側にも、高齢者虐待が疑われる等の場合には開始時に通知するという例外があります。
書類さえ整っていれば、実際のケアは関係ない
監査では、記録、勤務実態、実際のサービス提供、請求の整合性が問われます。この誤解が生まれるのは、準備という言葉が「書類をそろえること」と結びつきやすいためでしょう。ただ、書類同士が食い違っていれば、そこが確認の対象になります。整えるべきは書類の見た目ではなく、実態との一致です。
記録が一つ欠けると、自動的に不正請求
記録の不存在や不備は運営基準違反として問題になり得ます。ただし不正請求の認定には、関係者の証言や他の諸記録との整合性等を調査する必要があるとされています。記録の不備と、不正請求の認定は別の段階です。とはいえ「なくても大丈夫」という話ではありません。両方向に振れないよう注意したいところです。
監査後は、必ず指定取消
監査の結果、不正が認められない場合もあります。改善を要する事項について行政指導が行われる場合もあります。処分に至る場合も、違反の種類や重大性、故意性、常習性、組織性、悪質性などによって検討される措置は異なります。指定取消は選択肢の一つであって、自動的な帰結ではありません。
監査は管理者だけの問題
監査では関係者への質問が認められており、実際のサービス提供を知る職員が確認を受ける場合があります。現場の記録や説明が、事実確認の材料になるということです。ただし、施設への行政処分と、介護職員個人が処分を受けることは別です。人員配置や請求といった施設運営全体の責任を、一職員が負うわけでもありません。
介護職が日頃から意識したいチェックリスト
監査の直前だけ気をつけても意味がありません。日常業務で続けられることに落とし込みます。
日々の業務で確認したいこと
- 実際に行ったケアを、その日の事実として記録している
- 行っていないケアを、実施済みにしていない
- 利用者さんの状態変化を、観察できた事実として記録している
- 必要な報告と申し送りを残している
- 個別サービス計画や、職員への指示を確認している
- 事故、ヒヤリハット、身体拘束等に関する施設の正式な手順を確認している
- ケアを実施できなかった場合に、理由とその後の対応を正式な方法で共有している
- コピーした定型文だけで記録を済ませていない
- 誤記を無断で消さず、正式な訂正方法に従っている
- 後から記録をまとめて作り直していない
- 勤務実態や資格配置について疑問があるとき、責任者へ確認している
- 加算のための記録を求められた場合、その加算の目的と要件を確認している
- 記録と現場の実態が食い違っている場合、黙って辻褄を合わせず正式に報告している
- 利用者さんの安全や虐待が疑われる状況を見過ごさず、法令と施設の通報・報告手順を確認している
並べてみると多く見えますが、中身は「見たことを見たとおりに書く」「分からないことは確認する」に集約されます。
そして、これらは行政に怒られないためのものではありません。正確な記録は、利用者さんの安全につながり、ケアの継続を支え、職員間の共有を可能にし、事故が起きたときの検証を助け、結果として介護報酬請求の適正化にもつながります。
ワイ自身、夜勤で困るのはいつも情報が足りないときです。前の勤務帯で何があったのか分からないまま、判断だけ求められる。逆に、必要なことが書かれていれば、それだけで動きやすくなります。記録の価値は、まずそこにあると思っています。
介護施設の監査に関するQ&A
行政の担当者が施設へ来たら監査ですか。
とは限りません。集団指導、運営指導、監査があり、さらに介護保険法以外の法令に基づく確認が行われることもあります。通知文書には根拠規定が記載されるため、そこで区別できます。
「実地指導」と「運営指導」は違うものですか。
実地指導は以前使われていた名称で、現在の指導指針では運営指導という名称が使われています。指しているものは基本的に同じ枠組みです。ただし、実地指導と監査は別物ですので、そこは混同しないでください。
運営指導から、その場で監査へ変わることはありますか。
あります。指導指針には、運営指導の実施中に基準に従っていない状況が著しいと認められる場合、不正請求、不正の手段による指定、高齢者虐待等により利用者等の生命または身体の安全に危害を及ぼしている場合(いずれも疑いを含む)を確認したときは、運営指導を中止して直ちに監査を行うと定められています。その際は口頭で監査を実施する旨が通告されます。
監査は事前に通知されますか。
実施通知は監査開始時に文書で行うのが基本です。監査マニュアルでは、この通知は事前に行う必要はなく監査当日でも構わないとされています。一方で、事前に連絡する場合もあると記載されています。「必ず抜き打ち」とも「必ず事前通知」とも言えません。
家族や職員からの苦情・通報だけで監査になりますか。
通報や苦情は、監査の必要性を判断する材料の一つです。ただし、情報が寄せられただけで違反や不正が確定するわけではありません。通報内容については虚偽または過失によるものでないか精査を行うとされており、事実の確認は監査の中で進められます。
監査では介護記録も確認されますか。
疑われている内容によります。運営基準や介護報酬請求に関する事実を確認する必要がある場合、サービス提供記録や介護記録が関係し得ます。ただし、すべての監査で同じ書類が必ず確認されるという固定の一覧はありません。
現場の介護職が質問を受けることはありますか。
あります。監査では関係者への質問が認められており、聞き取りは一人一人個別に行うとされています。ただし全職員が必ず対象になるわけではありません。聞かれた場合は、確認できる事実の範囲で答え、覚えていないことを推測で埋めないでください。
記録が不十分だと、すぐ不正請求になりますか。
なりません。記録の不存在や不備は運営基準違反として問題になり得ますが、不正請求の認定には、関係者の証言や他の諸記録との整合性等を調査し、サービス提供が不可能であったことを確認できるか判断する必要があるとされています。ただし、記録がなくてよいという意味ではありません。
監査が入ると指定取消になりますか。
そうとは限りません。不正が認められない場合もありますし、改善を要する事項について行政指導が行われる場合もあります。処分に至る場合も、違反の種類や重大性、故意性、常習性、組織性などを踏まえて程度が検討されます。
勧告と命令は同じですか。
違います。勧告は期限を定めて措置をとるべきことを求めるもので、従わなかった場合にその旨を公表することが「できる」とされています。命令は勧告に係る措置がとられなかった場合に行われる不利益処分で、行った場合は公示しなければなりません。なお、勧告を行えるのは人員基準違反や運営基準違反などに限られ、人格尊重義務違反や不正請求は勧告の対象になりません。
指定取消と指定の効力停止は何が違いますか。
指定取消は指定そのものを取り消すもので、事前に必ず聴聞を行う必要があります。効力停止は期間を定めて指定の全部または一部の効力を止めるもので、一部停止の例としては新規利用者の受入停止や報酬請求額の上限設定が挙げられています。なお、介護老人保健施設や介護医療院については、許可の取消しなど別の枠組みが定められています。
監査前に記録をまとめ直してもよいですか。
事実と違う記録を後から作ることは、してはいけません。監査時の虚偽報告や虚偽答弁は処分程度の加重項目とされていますし、問題を認識した後の隠ぺいも同様に扱われます。誤記の訂正が必要な場合は、施設の正式な訂正手順に従い、管理者へ確認してください。
介護職個人が処分されるのですか。
介護保険法上の指定取消等は、事業者や施設に対する処分です。施設への行政処分と、職員個人の処遇は別の問題です。なお、人格尊重義務は実際に行為をした従業者ではなく施設の開設者・事業者に課されているとされています。個々の労務上の扱いについては、勤務先の規程によります。
自治体によって確認方法は違いますか。
細部は異なります。指導指針や監査指針、各マニュアルは全国共通の枠組みですが、実施要綱や自己点検表、準備を求める書類の様式などは自治体ごとに定められています。実際の準備については、指定権者である都道府県や市町村の公表資料を確認してください。
まとめ|監査対策ではなく、日々のケアと記録を一致させる
この記事の内容を整理します。
- 行政の担当者が施設へ来ることが、すべて監査とは限らない
- 運営指導は施設等への支援を基本とする指導であり、監査とは目的も位置づけも異なる
- 監査は、基準違反、不正請求、不正の手段による指定、高齢者虐待等、またはその疑いについて、事実関係を的確に把握して公正かつ適切な措置をとることを主眼とする
- 監査で何を確認するかは、サービス種別や疑われている問題によって変わる。固定のチェックリストはない
- 監査後に必ず指定取消になるわけではない
- 行政上の措置は、違反の種類や重大性、故意性、常習性、組織性などを踏まえて検討される
- 現場の介護職が残す記録も、実際のケアや請求との整合性を確認する材料になり得る
そのうえで、最後に書いておきたいことがあります。
介護記録は、行政へ見せるためだけの紙ではありません。
その日、利用者さんがどういう状態で、こちらが何をしたのか。それを次の職員へ渡して、チームで支援を続けていくための記録です。夜勤に入るとき、頼りになるのは日中の記録ですし、日勤へ引き継ぐときに渡せるのは夜のあいだに書いたものだけです。
その記録が、実際に行ったケアと一致していること。当たり前のようですが、忙しい日ほど崩れやすいところでもあります。
監査の直前になって書類を取り繕うより、普段からその一致を保っておくほうが、結果としてはるかに楽です。そして何より、日々のケアと記録が一致している状態は、監査への備え以前に、利用者さんと職員の双方を守る土台になります。
参考資料(2026年8月28日確認)
- 厚生労働省「介護保険制度等における指導監督」
介護保険制度等における指導監督(厚生労働省) - 厚生労働省「介護保険施設等の指導監督について」(令和4年3月31日老発0331第6号/最終改正 令和6年3月26日老発0326第6号)別添1「介護保険施設等指導指針」・別添2「介護保険施設等監査指針」
介護保険施設等指導指針および介護保険施設等監査指針(PDF) - 厚生労働省「介護保険施設等運営指導マニュアル」(本文、別添 確認文書・確認項目一覧を含む)
介護保険施設等運営指導マニュアル(厚生労働省) - 厚生労働省老健局「介護保険施設等に対する監査マニュアル」(令和6年4月/令和6年4月5日老発0405第3号)
介護保険施設等に対する監査マニュアル(PDF) - e-Gov法令検索「介護保険法」(平成9年法律第123号)
介護保険法(e-Gov法令検索)