介護の現場で20年働いてきて、ワイがいくつか「これは特別に重い」と感じる病気がある。
ALS——筋萎縮性側索硬化症は、その一つや。

名前は聞いたことがある人も多いと思う。氷水をかぶるチャリティー(アイス・バケツ・チャレンジ)で広く知られるようになった。物理学者のホーキング博士の病気としても有名や。
でも、「具体的にどんな病気なのか」を正確に知ってる人は、意外と少ない。

この記事では、ALSがどういう病気で、どう進行して、どんな治療や介護があるのかを——介護職員にも、ご家族にも、できるだけ分かりやすく書く。


ALSとは、どんな病気か

ALSは、体を動かすための神経が、少しずつ壊れていく病気や。

人間が体を動かすとき、脳から「動け」という命令が出る。その命令は、神経を通って筋肉に伝わる。この「命令を伝える神経」のことを、運動ニューロン(運動神経)と呼ぶ。

ALSでは、この運動ニューロンが変性して、壊れていく。
命令を伝える経路が壊れるから、脳が「動け」と思っても、その命令が筋肉に届かへんくなる。
使われへんくなった筋肉は、だんだん痩せて、力が入らなくなる。これが「筋萎縮(きんいしゅく)」や。

重要なのは——筋肉そのものが悪いわけやないということ。
命令を伝える神経が壊れるから、結果として筋肉が動かなくなる。筋肉は「使われへんから痩せる」だけで、もともとは正常や。

手足の筋肉、話すための筋肉、飲み込むための筋肉、そして呼吸をするための筋肉——体を動かすほぼすべての筋肉が、進行とともに侵されていく。


日本での患者数と、発症の傾向

ALSは「指定難病」の一つや。国が難病として認定して、医療費の助成対象になっている。

日本でのALS患者さんの数は約1万人と推定されている。そして毎年1,000〜2,000人が新たに診断されている。

決して「ありふれた病気」やない。でも、「めったにない病気」と切り捨てるには、確実に存在し続けている病気や。

ALSの基本データ

国内患者数約1万人(指定難病)
年間新規発症毎年1,000〜2,000人
好発年齢50〜70歳代での発症が多い
性別男性のほうがやや多い
遺伝性約90〜95%は遺伝と無関係(孤発性)。残り5〜10%が家族性

多くの患者さんが50〜70歳代で発症し、性別では男性のほうがやや多いとされている。
介護施設で関わる年齢層とも重なるから、介護職にとっては「いつか担当する可能性がある病気」と言ってもええ。


何が原因で起こるのか

正直に書くと——ALSの原因は、まだはっきり分かっていない。

ALS患者さんの90〜95%は、遺伝とは関係なく発症する「孤発性」とされている。職業や生活環境とも無関係とされていて、「こういう生活をしてたから発症した」という分かりやすい原因がない。

残りの5〜10%程度が、遺伝が関わる「家族性」のALSや。両親やその兄弟、祖父母などにALSの人がいるケースがほとんどや。

原因としては、神経細胞にとって有害な物質が溜まること、過剰なグルタミン酸(神経を興奮させる物質)による神経への毒性、フリーラジカルによる酸化的な障害など、いくつかの仮説が研究されている。
また、喫煙が発症リスクを高める可能性も指摘されている。

原因がはっきりしないということは、「予防法もはっきりしない」ということでもある。
これが、ALSという病気の難しさの出発点や。


初期症状——どんなサインから始まるか

ALSの初期症状は、体のどこから始まるかによって、現れ方が違う。
大きく分けると、「手足から始まるタイプ」と「話す・飲み込むことから始まるタイプ」がある。

手足から始まるタイプ

一番多いのが、手や足の筋力低下から始まるパターンや。

「手の力が入りにくい」「箸が使いづらい」「ボタンがかけにくい」「ペットボトルのフタが開けにくい」——そういう、日常の細かい動作のしづらさから始まることが多い。
足の場合は「つまずきやすくなった」「階段が上りにくい」「スリッパが脱げやすい」といった形で出る。

初期は「年のせいかな」「疲れてるのかな」で見過ごされやすい。
でも、ALSの場合は——片方の手や足から始まって、徐々に範囲が広がっていく。そして、一度落ちた筋力が戻ることはない。

話す・飲み込むことから始まるタイプ

もう一つが、「球麻痺(きゅうまひ)」と呼ばれる、話す・飲み込む機能から始まるパターンや。

「ろれつが回りにくい」「言葉が聞き取りにくくなった」「食べ物が飲み込みにくい」「むせやすくなった」——そういう症状から始まる。
特に高齢者で、話しにくい・飲み込みにくいという症状(嚥下障害)で始まるタイプは、進行が早いことが多いとされている。

見過ごされやすい初期サイン

・手:箸・ボタン・ペットボトルのフタが扱いにくい

・足:つまずく、階段が上りにくい、スリッパが脱げる

・口:ろれつが回らない、言葉が不明瞭になる

・喉:飲み込みにくい、むせる

・全身:筋肉がピクピク動く(線維束性収縮)、力が入らない

ALSに特徴的なのは、筋肉が勝手にピクピクと動く「線維束性収縮(せんいそくせいしゅうしゅく)」という症状や。
これは神経が壊れていく過程で起きるもので、本人が気づくこともある。


どう進行していくのか

ALSは、常に進行していく病気や。一度かかると、症状が軽くなることはない。

体のどの部分から始まっても、やがては全身の筋肉が侵されていく。
手から始まれば足へ、足から始まれば手へ、そして話す・飲み込む機能、最後には呼吸をするための筋肉(呼吸筋)も侵される。

呼吸筋が侵されると、自分で呼吸をすることが難しくなる。
人工呼吸器を使わない場合、病気になってから亡くなるまでの期間は、おおよそ2〜5年とされている。

ただし——ここが大事なところやけど、経過は患者さんごとに大きく異なる。
中には人工呼吸器を使わなくても10数年という長期間、非常にゆっくりした経過をたどる人もいる。その一方で、もっと早く呼吸不全に至る人もいる。

「ALSと診断された=余命〇年」と単純に決めつけることはできへん。
個々の患者さんに合わせた対応が必要になる——これは医療者も介護者も、常に心に置いておくべきことや。


ALSの一番残酷な特徴——「保たれるもの」がある

ALSを語るうえで、絶対に外せへん特徴がある。
体が動かなくなっていく一方で、多くの場合、意識や知性、感覚は保たれるということや。

ALSで侵されるのは、基本的に「運動」の神経や。
だから、体は動かせなくなっていくのに——

ALSで比較的保たれやすいもの

・思考力・知性(意識ははっきりしている)

・視覚・聴覚・触覚などの感覚

・痛みや痒みを感じる感覚

・眼球の動き(最後まで動かせることが多い)

・排尿・排便の感覚(コントロールが保たれることが多い)

頭ははっきりしている。話の内容は全部分かる。痛い、痒い、暑い、寒いも感じる。
でも、体が動かへんから、それを伝えることが少しずつ難しくなっていく。

これが、ALSの一番残酷なところやとワイは思う。
意識が保たれたまま、自分の体が思い通りに動かなくなっていくのを、本人がはっきり自覚し続ける。

かゆいところを掻いてほしい。体の向きを変えてほしい。でも、それを言葉で伝えることすら、進行とともに難しくなる。
介護する側にとって、これは大きな課題になる。「本人は全部分かっている」という前提で関わらなあかん。

なお、近年はALSに認知症(前頭側頭型認知症)を合併する患者さんも一定数いることが分かってきている。
「必ず知性が保たれる」と決めつけるのも正確やない。だからこそ、一人ひとりの状態を丁寧に見ることが大切になる。


診断——なぜ時間がかかるのか

ALSの診断は、簡単やない。

初期症状が「手が動かしにくい」「ろれつが回らない」といった、他の病気でも起こりうるものやから——最初は別の病気を疑われることも多い。
頚椎の病気、脳梗塞、別の神経の病気——そういったものと区別しながら、慎重に診断を進めていく必要がある。

検査としては、筋電図(筋肉や神経の電気的な活動を調べる)、MRI(他の病気を除外するため)、血液検査などが行われる。
これらを組み合わせて、「他の病気ではないこと」を確認しながら、ALSという診断にたどり着く。

だから、診断がつくまでに時間がかかることがある。
その「診断がつかない期間」も、本人や家族にとっては不安で苦しい時間や。


治療——進行を遅らせる薬と、最新の動き

残念ながら、現時点でALSを完全に治す方法は確立されていない。
でも、進行を遅らせる薬は、少しずつ増えてきている。

リルゾール(商品名:リルテック)

1999年に日本で最初に認可されたALS治療薬や。
神経を興奮させすぎる物質(グルタミン酸)による神経細胞の障害を防ぐ働きがある。内服薬や。
効果としては、生存期間を数か月程度延長するとされている。ただし、筋力を回復させる効果はない。

エダラボン(商品名:ラジカット)

2015年に登場した、日本発のALS治療薬。
もともと脳梗塞の治療薬として開発されたもので、フリーラジカルという物質による神経細胞の障害を抑える働きがある。点滴と、内服の懸濁液がある。
早期の患者群に対して、症状の進行を遅らせる効果が示されている。これも筋力を回復させる薬ではない。

高用量メコバラミン(商品名:ロゼバラミン)

2024年11月から使用できるようになった、比較的新しい薬や。
活性型のビタミンB12を高用量で使うもので、週2回の筋肉注射で用いる。
発症早期の患者さんに対して、臨床試験で進行抑制効果が示された。発症から間もない段階での使用が想定されている。

トフェルセン(商品名:クアルソディ)

2025年に承認された、さらに新しい薬。
これは、家族性ALSの中でも「SOD1遺伝子」の変異が関わるタイプ(SOD1-ALS)に対する薬や。
運動ニューロンに有害なSOD1というタンパク質の合成を減らすことで、病態の進行を遅らせる効果が期待されている。
ただし、これはあくまで特定の遺伝子変異を持つ患者さん向けで、すべてのALS患者さんに使えるわけやない。

治療薬について大切なこと

これらの薬は、いずれも「進行を遅らせる」「生存期間を延ばす」ことが目的で、ALSを治したり、筋力を回復させたりするものではありません。どの薬を使うか、使えるかは、患者さんの状態によって異なります。必ず神経内科の専門医と相談のうえで判断されます。

薬物療法以外にも、リハビリテーション(運動療法)、呼吸管理、栄養管理が治療の大きな柱になる。
強い筋力トレーニングではなく、緩やかな運動が良いとされている。
また、装着することで体の動きを助けるロボットスーツ(HAL)が、ALSを含む神経・筋疾患の医療機器として認可されるなど、新しい技術の活用も進んでいる。


呼吸の管理という、大きな分かれ道

ALSが進行すると、呼吸をするための筋肉が弱っていく。
これは、ALSの療養の中でも特に大きな「分かれ道」になる。

呼吸が苦しくなってきたとき、呼吸を助ける方法がいくつかある。
マスクを使って呼吸を補助する「非侵襲的人工呼吸(NPPV)」と、気管を切開して人工呼吸器をつなぐ「侵襲的人工呼吸(TPPV)」や。

気管切開をして人工呼吸器を使うかどうか——これは、本人と家族にとって、非常に重い選択になる。
人工呼吸器を装着すれば、生存期間は大きく延びる。でも、装着すると外すことは難しく、その後の介護や生活のあり方も大きく変わる。

これは「正解」がある問いやない。
本人がどう生きたいか、家族がどう支えられるか、それぞれの価値観に関わる選択や。
だからこそ、進行する前の早い段階から、本人・家族・医療者の間で繰り返し話し合っておくことが、とても大切になる。


栄養の管理——食べる力が落ちたとき

飲み込む筋肉が弱ってくると、食べることが難しくなる。むせる、飲み込めない、食事に時間がかかる——そういう状態が進んでいく。

食べられないと、栄養と水分が不足する。体力が落ちて、病気の進行にも影響する。
そこで、口から食べることが難しくなったとき、胃に直接栄養を送る「胃ろう」という選択肢が出てくる。

胃ろうは、お腹に小さな穴を開けて、胃に直接栄養を入れる方法や。
これも、呼吸器と同じく本人・家族の選択が関わる。ただ、ALSの場合は、呼吸機能が比較的保たれている早めの段階で胃ろうを造ることが勧められることが多い。進行してからでは、処置自体のリスクが高くなるからや。

食べる楽しみと、栄養を確保することのバランス——これも、一人ひとり違う。
「最後まで口から食べたい」という気持ちと、「栄養を確保して少しでも長く」という気持ち。どちらも尊重されるべきものや。


コミュニケーションを支える

ALSが進行すると、話すことが難しくなる。でも、前に書いたとおり——頭の中は、はっきりしていることが多い。

伝えたいことは、たくさんある。でも、声に出せない。手で書くこともできない。
この「伝えられないもどかしさ」を、どう支えるか。それが、ALSのケアの大きなテーマになる。

今は、さまざまなコミュニケーション手段がある。
文字盤を指やまばたきで指し示す方法。わずかに動く部分(指先、まぶた、視線)を使ってスイッチを操作する方法。視線の動きを読み取って文字を入力する「視線入力装置」。
ALSでは眼球の動きが最後まで保たれやすいから、視線を使ったコミュニケーションが特に重要になる。

「話せない=伝えたいことがない」ではない。
伝えたいことは、ずっとそこにある。それを引き出す手段を一緒に探すことが、ケアする側の役割や。


介護職員・ご家族が知っておくべきこと

最後に、ALSの方に関わる介護職員やご家族に、ワイが大切やと思うことを書く。

「本人は全部分かっている」を前提にする

これが一番大切や。
体が動かなくなっても、意識や知性は保たれていることが多い。
だから、本人の前で「この人はもう分からへんから」というような態度や会話は、絶対にしたらアカン。
聞こえている。分かっている。感じている。その前提で、敬意を持って関わること。

小さな変化に気づくこと

進行性の病気やから、できることが少しずつ変わっていく。
昨日できたことが、今日はできないこともある。
「前はこうやって伝えてくれてたのに」と過去のやり方に固執せず、今その人ができる伝え方を一緒に探し続けること。

本人の「選択」を尊重すること

呼吸器をつけるか、胃ろうを造るか——ALSの療養には、重い選択がいくつもある。
これらに「正解」はない。本人がどう生きたいかが、何より優先される。
介護する側は、その選択を支える立場であって、誘導する立場やない。

支える側も、一人で抱えないこと

ALSの介護は、長期間に及び、負担も大きい。
家族だけで抱え込むと、共倒れになりかねへん。
訪問介護、訪問看護、レスパイト(介護者が休むための短期入所)、患者会など——使える支援は遠慮なく使ってほしい。
支える人が倒れたら、支えられる人も困る。これは、ワイが20年現場で見てきた、まぎれもない事実や。


ALSは、難しい病気や。原因も分からへんし、完全に治す方法もまだない。
でも、進行を遅らせる薬は増えてきているし、コミュニケーションや療養を支える技術も進歩している。
何より——その人らしく生きることを支える「ケア」は、いつだってできる。

この記事が、ALSという病気を知るきっかけになったなら——そして、ALSの方やそのご家族に関わる誰かの役に少しでも立ったなら、夜勤明けにこれを書いてる甲斐があるってもんや。

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